── リーダーシップを持って行動するためにも相手のことを思いやるような気づきが大切ですね。
そう、気づきが必要なんです。気付いた人がやれば良く、誰かが行動に移せば、そのうち全体がきちんとするようになります。担当を決めて規則で縛ってしまったら、その人しかやりません。そういう組織は物事がうまく動いている時は表面化しないですが、一度問題が起きれば修正するのに時間がかかると思います。海外遠征に行った時も、結局は誰かが荷物を運ばなければいけないわけですから、年齢やキャリアに関係なく誰がやっても良いわけです。その方が効率も良い。
── 常に競争心を持たせてメンタリティの向上を促していた点については?
1つは、これまで競り負けている試合が多かったのが気になっていました。その敗因はコーチや選手だけのせいではなく、組織全体で考えなければいけないと思っていました。アジアのチームを相手に僅差の中で勝ち抜くためには、粘り強く、ちょっとやそっとのことではへこたれない逞しい組織にしていかなければいけない。
ゲームの采配を振るのは私ですが、実際にコートで戦うのは選手たちです。だからこそ、選手たちの判断を大切にしていました。プレーの一つひとつが判断であり、世の中の全てが判断の連続です。「規律」「勤勉」「協力」は日本人が生まれながらに持っているものです。問題は「情熱」を表現して「実行」できるかどうか。大切な3つの要素はすでに持っており、「情熱」「実行」が備わればすごい組織力になると今でも思っています。
── 就任時に掲げた「規律・勤勉・協力・実行・情熱」のフィロソフィーが選手たちにも浸透していった実感はありますか?
アジア選手権の準決勝でフィリピンに負けた後、相手のボールドウィンヘッドコーチが、「日本以外にこれだけの組織力を持ったチームは作れない。16チームの中でチームワークは日本がNo.1だ」と言ってくれました。強いチームや良いチームと思っていても、自分たちで評価はできません。見ている人や対戦相手が評価してくれることで初めて自分たちの強みとなり、プライオリティやアドバンテージになってくるわけです。そういうことが伝わったのはうれしいです。
── 長谷川さんが日本代表ヘッドコーチになって学べたことは?
もちろん海外のチームとの試合を通じていろんなバスケットを学べましたが、それ以上に原点に返れたことが大きいです。大人であっても一生懸命努力をし、みんなで協力し合い、たった1個の勝利を目指す。その課程において負けることがあっても挫けることなく、トライしてがんばってつかんだ1個の勝利に対してみんなで喜ぶ。スポーツにおける一番の原点を、日本代表での3年間で味わわせてもらいました。それがスポーツの良さでもある。大人になっても悔しがったり、大喜びして成長することをもう一度味わうことができたのは、すごく大きな経験でした。
日本代表元ヘッドコーチ 長谷川健志
リーダーシップを説いて世界へ導いた名将
リーダーシップを発揮することがバスケ選手の使命
うまくいく方が少なく、多くの失敗をして学びながら人が人を育むコーチ業
文・写真 泉誠一