ビッグマンレジェンドインタビュー 北原憲彦

いつだってバスケットは楽しかった part3

part2より続く

アジア選手権で宿敵韓国を倒し、モントリオールオリンピックの切符を手にした北原は22歳にして栄えあるオリンピアンになった。だが、その舞台で目の当たりにしたのは高々とそびえ立つ世界の壁。それは国内では無敵を誇り、アジアでも十分に通じた自分のパワーを容易にはね返すほどの厚い厚い壁だった。

 

たとえ手も足も出なくてもオリンピックに行かなきゃわからないことがあるんです。

 

── 日本代表選手として長い間戦ってきた北原さんですが、最も思い出深い試合はなんでしょう。

思い出深い試合はいくつもありますが、その中でもいろんな意味で忘れられないのはモントリオールオリンピック出場を賭けた韓国戦でしょうね。タイ(バンコク)で開かれたアジア選手権の準決勝です。このとき中国はまだIOC(国際オリンピック委員会)に加入していなかったので、韓国に勝てばオリンピック出場が決まるという文字通り負けられない試合でした。僕たちはその韓国戦を想定した練習をずっと続けてきて、「今日は絶対勝つ!」と朝から気合いが入ってました。ところが、宿舎から試合会場に向かう道が大渋滞で全く車が進まない。今日に限ってどうしてこんなに渋滞しているんだと聞いたら、みんな日本と韓国の試合を見に行くからだと言うんですね。こりゃダメだ、このままじゃ間に合わないと思って、みんなで車を降りて会場まで走りました。ボールを抱えて走ったんですよ。会場に着いたのはなんと試合3分前、アップもしないでいきなり試合です。でも、まあ、あれだけ走ったからアップはしなくていいだろうって(笑)

── 壮絶な戦いだったと聞いています。

ずっとビハインドを背負う苦しい展開でした。今もそうですが、韓国はシュートが非常に巧いチームで、ドライブからキックアウトして高確率のシュートを次々に沈めてくる。それに対抗する策として日本はずっとプレスの練習をやってきてたんですが、そのプレスがあまり効かないんですね。あんなに練習してきたのに、この日のためにやってきたのにっていう思いも過ぎりましたが、とにかく自分たちがやってきたこと、目指したバスケットを貫こうと声をかけ合いました。すると、残り数分となったところで韓国の足がついに止まったんです。その機を逃さず一気に攻め、決勝点はスティールからのファストブレイクでした。勝った瞬間、浮かんだのは「報われた」という思いです。これまで費やしてきたものが結果になった、報われるっていうのはこういうことなんだなと。あれはもう一生忘れられない試合です。

── そして、いよいよモントリオールオリンピックへ。オリンピアンとしての感想を聞かせてください。

オリンピックに出場できたのはものすごく名誉なことだと今も思っています。開会式はかなり待たされて具合が悪くなる選手もいると聞いて、最初はパスしようと思っていたんですが、ミュンヘン(オリンピック)に出た先輩から「いや、どれだけ待たされようと開会式は出た方がいい。それだけの価値はある」と言われ、入場行進に参加しました。先輩が言ったとおりでしたね。あの開会式の雰囲気はもうなんて言っていいのか、とにかく最高のものでした。ただ肝心のバスケットは?というと、日本は不戦勝のエジプト戦を除いて6戦6敗の11位。世界の壁をまざまざと見せつけられた大会になりました。まず本番前からコテンパンにやられたんですよ。練習試合をしたプエルトリコには手も足も出ませんでした。さらにショックだったのは帰りのバスで「このチームでどれぐらい練習してるの?」と聞いたとき返ってきた「10日」という答え。アメリカの大学に留学している選手が多いからそれぐらいしか練習時間が取れなかったんだよって言うんですね。それにしても10日!たった10日ですよ。「君たちはどれぐらいの期間練習してきたの?」と聞かれないことを祈りつつ、その時点で世界との差をひしひしと感じました(笑)。だけど、それもオリンピックに行ってみなきゃわからないことなんですね。手も足も出ない試合だったとしても戦わなきゃわからないこともあるんです。そう思うと、オリンピックはやっぱりアスリートにとって特別な大会なんだなあと感じます。いろんな意味でアスリートの夢の舞台だと思いますね。

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