2軒目はKOFFEE MAMEYAさん。
相当な人気店のようで、僕が訪れたときは行列ができていた。
カウンターで数人の店員が接客するスタイルなのだが、その端に常連客っぽい雰囲気のダンディーな欧米人がコーヒーをすすりながら佇んでいる。
それがオサレな店内の雰囲気と相まって、場のフォトジェニックさを限界突破させていた。
それは注文を終えてコーヒー待ちの女子2人が、あまりの芸術的構図に耐えきれず写真を撮らせて欲しいとお願いするほどだったが、ダンディーは
「僕は写真がダメなんです」
と流暢な日本語で断っていた。
めっちゃ日本語うまい。
全然クセもないし相当長いこといるんだろうな、とか考えてたらダンディーが続けてこう言った。
「魂を抜かれちゃうから」
明治?
さてはお前日本人やな。
他にも外国人の客が多かったから勝手にこのダンディーもそうかと思ってたけど、ただの外国人っぽい日本人やろ。
すっかり騙されたわ、あーなんか安心した。
あまりにオサレが過ぎる場所で過度な緊張状態にあったのかもしれない。
目の前で茶番を見せつけられたことで少し気持ちが落ち着いてきたのか、遠い過去の記憶である高校時代のことが思い出された。
毎年インターハイの時期になると、月間バスケットボールで注目校と注目選手の特集記事が組まれるのだが、3年生になった僕たちは最後の夏の大会を有終の美で飾るべく、他校のチェックに余念がなかった。
その内の1つ、市立柏高校のページを開いた時、周囲に緊張が走った。
「黒人選手がいる…」
当時はセネガル人などの外国人留学生など存在せず、外国人がチームにいるというだけでかなり衝撃的な事件だった。
身体能力に秀でた黒人選手がいるんじゃ敵わない…今年は市立柏の時代で間違いない…
そんな諦めムードの中、藁にもすがる思いでその選手のプロフィールを確認する。
1番上、名前のところにはこう書かれていた。
「副島淳」
わけがわからなかった。
ハーフ? とかなのかな?
そうは言っても英語とかベラッベラでビョンビョン跳ぶ感じなんでしょ?
お父さんとかに本場のバスケットとか習っちゃって、将来的にNBAで
「ヘーイ、コービー」
とか気安く呼び合っちゃうんでしょ?
なんでそんなやつがこんなとこにいるんだよふざけんなよ。
そう思いながらプロフィールをさらに追っていくと、こう書いてあった。
「苦手な科目:英語」
これイケるな。
こいつ生粋の日本人じゃね? 条件一緒だわ、多分。
後日、ウィンターカップで市立柏と対戦したが、副島淳はわりと並の身体能力で、体を張って真面目に頑張る縁の下の力持ちタイプの選手だった。
ここのコーヒーも、美味しかった。
「人は見た目が9割」なんて囁かれたりもする現代社会だが、やはり見た目で中身を判断するのはことのほか難しい。
お洒落に着飾ってはいるが泥臭いほど欲望に忠実な人や、外国人のように見えて日本人より日本人らしい人は数多い。
人間の思い込みや偏見から逃れる努力を忘れず、本質を捉える労力を費やし続けなければ、いつまでたっても物事の外側しか理解することができず、核心に近づくことはできないのだ。
その証拠に、形から入った僕が自宅で淹れるコーヒーは、いつも不味い。
今回の引用元:『ドラゴンボール』/鳥山明/集英社
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。
著者近影は本人による自画像。