また攻撃側は12秒以内に攻めなければならない。相手のシュートが決まり、かつボールデッドになれば、トップからスタートできるが、シュートが決まっても、ボールがライブのままだったり、またリバウンドを取ったときは、そこから一旦スリーポイント(3×3ではツーポイント)ラインの外にボールを出さなければならない。しかしリバウンドを取った時点で12秒のカウントは始まり、しかもノーチャージングエリアを出たところから相手チームはプレッシャーをかけてよいことになっている。そうしてボールを外に出すまでの時間が長くなればなるほど、ゴールに正対して攻める時間は少なくなってしまうのだ。
「5対5だとボールを運ぶときなど、流れの中で次のプレーをどうするか考えることもできるけど、3×3は時間も短いし、時間がずっと流れているイメージだから、次に何をすべきか、考える時間がないんです」
日本代表は急造チームだったこともあって、コーチ陣がフォーメーションを用意してくれた。だが考える時間が短い3×3において、フォーメーションへの意識を強めすぎると、攻撃が限定されて、窮屈な攻めになってしまう。
矢野自身、「10年前の自分を思い出さなければいけないなって感じました」と振り返る。チームのシステムに捉われるのではなく、個々が5対5以上に素早い状況判断と決断、実行をしなければいけない。JOMO(現JX-ENEOS)や富士通のときのように、積極的に自分から攻めていく強い姿勢がなければ3×3では通用しないなと感じたわけである。
尽きぬオリンピックへの思い まずは国内ツアー参戦から
Wリーグでは所属した3チームすべてで日本一を経験している矢野だが、彼女を支えてきたのはやはり2004年に出場したアテネオリンピックである。
「アテネが終わったときに、もう1回オリンピックに出られるならと思って、今まで現役を続けてきたところもあります」
そう語る矢野の視界には、当然2020年の東京オリンピックが入っている。5対5のバスケットからは退いたが、今後は「3×3の矢野良子」として自身2度目のオリンピック出場を目指す。
「競技は違っても出場のチャンスがあるなら、そこをアスリートとしての最終目標にしたいと考えています」
今後は国内ツアーを転戦しながら、個人のランキングポイントを稼いでいかなければならない。ただし「まずは一緒に回ってくれる選手を集めるところから」だと笑う。現状“チーム矢野(むろん正式名称ではない!)”は矢野1人なのだ。
「一緒にやってくれる人はSNSでもいいから連絡が欲しいですね。ただし私は本気で東京オリンピックを目指しているから、そこは十分に考えてもらわないといけないけど」
生半可な気持ち、レベルでは許されないということか──そう聞くと「いやいや、とりあえず来てくれるだけでも……」と笑って否定するが、その目は若いころのギラギラとした、あの“リョウコ”の目に戻っていた。本気だ。
1978年12月生まれの矢野は2020年……いや、女性の年齢を記すことはやめておこう。ただ2020年、彼女が東京オリンピックに出場することが叶えば、彼女は間違いなく、女子3×3の“LEGEND”になる──。
文 三上太
写真 安井麻実