スタート!スタートだぞ!
心の中で唱えながらカメラを構えていた。
隣に座る同じく日本人フォトグラファーの心の中も、きっと同じだっただろう。
果たして日本は八村が仕掛けてシュートファウルをゲットしフリースローで得点する、上々の出だしだ。
これはいい戦いをしてくれる、と感じた。
結果を言ってしまえば、序盤は日本もいいゲームを展開し拮抗したのだが、ディフェンスで持ちこたえられずに後半離される展開になってしまった。
日本は最後まで粘り強く戦ったが、第1Qに一度リードを奪って以降、一度もカムバックできずに敗戦を喫した。
ラマスHCが「89点は取られ過ぎだ」と言ったように、ディフェンスで対応できなかったことが大きな敗因だ。
このゲームに勝てば予選突破の望みも残ったが、勝利することは叶わなかった。
さて、詳しいゲームリポートは他記事に譲って、フォトグラファー目線で気づいたことを一つ。
田中の表情だ。
かかっているとでもいうのか、コート上では滅多に見ないような気合いの入った険しい顔をしていた。
田中は学生時代から同年代では頭一つ抜けた存在だったせいか、いつでも飄々と、淡々とプレーしている印象だった。攻めようと思えば攻められるが、余裕を持って周りを生かすプレーを心がけているような、それはインカレ決勝の舞台やBリーグのゲームですらそう感じていた。
写真を撮っていれば分かるが、もちろんドライブで切れ込んだり相手と接触した時は顔を歪めることもある。だがプレーが止まったときは、彼の表情から感情を読み取ることは難しい。
それがこのゲームでは違った。
チェコボールでのインバウンド、ディフェンスにつくときの田中の顔は鬼気迫るものがあった。例えるなら、全国初出場の高校が全国常連の強豪に「舐められたまま終わってたまるか、絶対に一矢報いてやる」と前かがりになって喰らい付くような、そういう顔だった。
こういう、ビッグゲームで覚醒する選手がいたり、より上のレベルを体感し、体感するだけではなく上回ろうとすることで得られるものも多い。
やはりこういう戦いを日常にしていくことが理想だと改めて感じた。
晴れ間は一瞬で、雨が降りそうで降らない、この日のぐずついた天気は夜まで続いた。
USAとトルコのゲームが延長に入って長引いたことで、メディアバスの出発が大幅に遅れたが、車内の雰囲気はそれほど沈鬱でもない。
予選突破が叶わぬものとなってしまった今、残るUSA戦に向けて、私たちメディアももう開き直るしかないのだった。
帰りのバスに乗っている間に雨が少し、降ってきたが、ホテルに着く頃にはまた止んだ。
さぁ、明日のUSA戦当日は、果たしてどんな天気になっているだろうか。