豆腐って素晴らしい食べ物だと思う。
煮てよし、焼いてよし、揚げてよし。
かしこまった料亭から心休まるご家庭まで、いかなる場面、いかなる調理法にも対応する柔軟性がその魅力を底上げしている。
中でもとりわけ美味い食べ方としてお勧めしたいのは、豆腐かけご飯である。
冷奴に醤油をかけてぐっちゃぐちゃに混ぜ、白いご飯の上にパイルダーオンして食べるこの料理を、読者諸君はご存知だろうか。
ご飯と醤油を豆腐が仲介することにより、鋭い塩味が大豆の旨味×2に優しく抱きしめられ、ご飯の甘さと相まって絶妙な味加減を生み出すのが豆腐かけご飯だ。
僕の周りの人間にこの話をすれば10人中7人が卵かけご飯と間違え、2人は僕の人間性に疑いを持ち始め、最後の1人はいきなり仮想通貨の話を始めた。
確かに白いご飯の上に白い豆腐を重ねるホワイトオンホワイトに違和感を覚える人もあるかもしれないが、心配には及ばない。
どこまでもホワイトアウトしたこの料理はその白さゆえに、様々な食材を受け入れる懐の広さも兼ね備えている。
その時々の気分に応じて味付け海苔やキムチを加えるなどのアレンジをきかせ、豆腐にその味わいの全てを引き受けさせることができるのだ。
無限のポテンシャルこそが、この食べ物の真の強みなのである。
かつて同僚であった須田侑太郎という男もこの逸品に魅了された一人だ。
「僕のマッソウは豆腐かけご飯でできている」とは一言も言わなかったが、きっと今も東京のスーパーで毎日、絹ごしの冷奴を買い込んでは主たるタンパク源としているに違いない。
随分と前に彼らの練習場にお邪魔した時のことだが、体育館内にチームからの連絡書類や届いたファンレターなどを選手ごとに配布するためのレターラックが壁に掛かっていて、さすがは名門チーム、どの選手もポケットがパンパンに膨れ上がっているなあと感心して見ていた。
移籍していったばかりの須田侑太郎などは我々が誇りに誇った稀代のマッソウであり、当然、その胸筋に勝るとも劣らぬポケットの溢れように違いないと確信して彼に割り当てられた場所を見やると、やけにすっきりした空間に布が寂しくたるんでいた。
見かねたジョシュスコットがその場で、覚えたての日本語を駆使してお手紙をしたため、ポケットに放り込んでいた。