「これより、第3867回労働組合集会を開催する。組合員は全員出席しているか。」
『………。』
「よろしい。来月の労使協議に向けて活発な意見交換を期待する。経営者側との交渉は君たちがより良い労働環境を自ら形成していくために与えられた立派な権利だ。要求の内容次第で雇用が脅かされるようなことはないように我々は保護されている。是非、遠慮なく現状の不満を訴えて欲しい。」
『………。』
「ではまず最初の議題、『エサの回数が減らされた件』について議論を進めていく。私から概要を説明すると、これまで一日四回であった食事の回数が二回に減らされた。我々の同意を得ることなく一方的に、だ。そればかりか、総合的な食事量もこっそり減らされていた。これは明らかに労働者の権利を侵害している。」
『ねえ。』
「確かに四回から二回になって、一回分のボリュームがほぼ倍増したため食事直後の満足感は増した。それはもう夢のような心持ちだ。うっかりキマっちまうことすらある。しかしその分、食事直前の空腹感は地獄だ。お腹と背中がくっついて社交ダンスしてやがる。」
『ちょっと。』
「今までは一日四回、15gずつだったが、その日の最後、就寝前の食事はボーナスチャンスで20gくれたりしていた。それが今はどうだ!計算するのが面倒だからと30gをきっちり二回出しやがって!5gの違いもわからねえのか!お前らの脳は小学何年生だ!」
『ねえってば!』
「……どうした、ミケ組合員。」
『誰が組合員よ。ていうかこれなんなの。』
「だから最初に言ったように労働組合集会だ。我々があの腐った体制側に正義の鉄槌を下す。」
『黙れアメショ。どこでそんないらん知恵仕込んできた。組合ってのはお前みたいなやつが私的に濫用していい組織じゃないんだよ。そもそもここにはアタシとあんたの二人しかいないでしょうが。』
「二人以上の共通の目的を持つものが集まれば、それは立派な組織だ。」
『アタシとあんたの目的は共通してない。』
「え?そうなの?」
『そう。あんたは雇われる側でしょ。アタシは雇う側だもの。』
「……ど、どういうことですか?」
『あの石崎とかいう足の短い男はね、アタシの利益、すなわち衣食住のために労働しているの。おっきめの玉を地面についたり輪っかにくぐらせたりたりする妙ちきりんな仕事みたいだけどね。そしてアタシはその対価としてあの短足に精神的安寧を与えている。』
「そ、それは逆なのでは…」
『あんたの場合はそうね。あんたはエサを求める。それも異常なまでの執着よ。そしてそのために労働をする。地面にひっくり返って謎の腹踊りをしたり芸まで仕込まれてみたり。そうやってあの胴長を喜ばせる対価としてエサをもらってる。アタシとはまるで立場が違うわ。』