食べ物の恨みは恐ろしい、という教訓が猫界にも語り継がれているのかはわからないが、アメショと三毛の折り合いはあまりよろしくない。
ゆっくりご飯を食べてる最中に横からずけずけと割って入ってきて、許可もなく全部平らげられてしまったら、そのならず者を嫌いになるのも無理からぬ話ではあると思う。
しかしアメショの方は三毛のことを憎からず思っているようで、毛繕いをしてあげたり一緒に遊びたがったりといった様子だが、なかなか受け入れてはもらえないようだ。
それでも三毛が渋々遊びに付き合ってあげることはあるけれど、たまにじゃれあいに火がついてしまい、追い詰められて本気で威嚇してる三毛を申し訳なさそうに見つめているアメショをみると、不憫な気持ちになる。
でも実際、この2匹の体格差で本気出したら遊びになどならない。
現在、アメショの5.4kgに対して三毛は3.4kgしかない。
だからといってアメショの機動性が劣っているかというとそんなことはなくて、むしろ身体が絞れて動きにキレが出てきているのだからもう負ける要素は万に一つもないだろう。
体重1.5倍って結構なアドバンテージだからな。
僕が80kgなので1.5倍の120kgもある大男が本気でぶつかってきたら命の危険しか感じないよ。
結構昔の話だけど、身長が210cm越えてて無駄な贅肉が全くないムキムキマッソウで、かつめちゃくちゃ走るのが速いピーターコーネルっていうチートなステータスの選手がいた。
それで、「あいつの胸筋にぶつかったら硬すぎて目の上切れたわ」って楽しそうに喋ってた大屋さんという陽気な人のことを思い出した。
なんで思い出したのか全然わかんないけど。
アメショが小さかった頃は、よく僕に甘えにきていた。
子猫の頃はまだ小さかったので(子猫にしてはデカかった)、肩の上に乗って寝たり、膝の上に乗って寝たり、去勢したあとの麻酔が残る意識が朦朧とした状態で僕の腹の上に乗ってきておしっこ漏らしたりしていた。
おもちゃを持ってくれば無限に遊ぶし、夜は僕の足元でいつも寝ていた。
今、そのポジションは全て三毛のものになっている。
僕の膝に座る三毛を横目に通り過ぎ、おもちゃを取り出してもぐっと堪えて三毛を見守り、夜はベッドから追い出される。
実力行使すれば取り返せるのは目に見えているのに、三毛への愛情から全てを譲ってあげているように感じる。
でも飼い主としては、その我慢がストレスになっていないだろうかと心配になることも少なくない。
ある日の未明、ふと目が覚めて足元を見ると、アメショが小さかった頃のようにそこにいた。
まだ眠りについてはいないようで、毛布の感触に浸りながら喉を鳴らしている。
周りに三毛がいる気配は無い。
きっとアメショの誕生日に買ってあげたハンモックで寝ているのだろう。
アメショが驚かないように、邪魔しないようにゆっくり体を動かし、顔を近づける。
三毛には気づかれないように小さな声で名前を呼ぶと、
「………ぅわん」
と、静かに返事をしてくれた。
やっぱり犬だった。
石崎巧の連載コラム【404 Not Found】
第11回『愉悦は幸福のありかを指し示す』
今回の引用元:『夏目友人帳』/緑川ゆき/白泉社
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。
著者近影は本人による自画像。