主たる飲み物はコーヒーであり、主たる食べ物がパンのお店なのだ。
ご多分にもれず、僕の注文もコーヒーとトーストだった。
小麦の話をしていたときに僕はトーストをむさぼっていたし、カフェインの話題の時点ではすでにコーヒーを飲み干したあとだった。
もちろん、全然、そんな話を聞かされてたからってこれっぽっちも食事がまずく感じたりなんかしなかったし、なんならいつもよりうめぇな、どんどんうまくなるなこの店、すげえな、とか思ってたから別にいいんですけどね。いや、ほんと。マジで。ほんとだって。強がってなんかないから、全然。なんつーか自分、鋼のメンタルでよかったです。多分アルミのメンタルくらいの人だったらお残ししちゃってたんじゃないかな。それかひっそりとトイレ行ってお戻しになってたかもしんない。多分だけどね。人によると思うけどね。
ただただこの女子たちがこのカフェにおいてどんなものを注文し、そのような会話に及んだのだろうということだけが気になった。
そういえばその昔、沖縄に古川という男がいた。
彼はオーガニック食を信条とし、日々の栄養摂取に並々ならぬこだわりをみせ、顔を合わすたびに
「…添加物、…抗酸化、……ケトン体」
などと奇怪なことをぶつぶつとつぶやいていた。
なんだかちょっと不憫な気がした僕は、少しでもおいしいものを食べてほしいなあと常日頃から心配していたのだが、いや、うそです心配はしていませんでしたごめんなさい。
とにかくそんな折、国道を車で走っているときに、たまたま見かけた某回転寿司チェーンの看板に、ピンときちゃったのですぐさま報告すると、
「それは違う」
と拒絶された。
そして、遠い北の土地に行ってしまった彼は風の噂によると、オーガニック食をやめてしまったらしい。なんだったんだ、一体。
我々は体内に直接栄養を送り込んで生きていくしかないので、食べるものが体に与える影響を重要視するのは当然のことだろう。
もしかするとそう遠くない未来にもっと科学的な研究が進んで、これまで普通に摂取されてきた食べ物が実は体に悪影響をもたらしている、なんてことがはっきりと示されてしまったりするかもしれない。
そうなれば国民の健康を守る目的で、人体に害のある食べ物に対する弾圧や排除の動きが活発になり、規制が進み、表立っては食べられなくなってしまうなんてことになる可能性だってある。
「俺の胃袋は白砂糖で真っ白だよ…今さらやめたって良くなりゃしねえ。むしろ具合が悪くなっちまう」
なんてことを言いながら、まるで肩身の狭い愛煙家のように家族に煙たがられつつ、ベランダでアルフォートをひとかけらかじる。
そんな未来がこないことを切に願い、僕は今日もカフェに出かける。
今回の引用元:『美味しんぼ』/雁屋哲・花咲アキラ/小学館
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。
著者近影は本人による自画像。