拝啓
お手紙ありがとう。楽しく拝読させてもらった。消費税が引き上げられたばかりの、混乱収まりきらぬ世の中において、「8%10%クイズ」とやらでにぎやかに日々を満喫されているとのこと、とても嬉しく思う。
君の言う通り、「石崎巧選手の背番号入りグッズ」には軽減税率が適用されるべきだと私も思う。あれは生活必需品だものな、偉い人にはそれがわからんのですよ。
それにしても君のおかげで、手紙を書くことの素晴らしさに改めて気づかされた。誰もが電子的な手段で連絡を取り合うこんな時代だからこそ、自ら筆を取ることに意味がある。書き連ねた言葉だけでなく、便箋やインクから人となりが伝わってくる、心揺さぶる通信手段であると言えよう。
手紙といえば、最近同僚の田代という男が「ヴァイオレット・エヴァーガーデンは面白いのか」などとおもむろに尋ねてきたので、「あれはよいものだ」と率直な意見を伝えたところ、熱心に見入っていたようだった。
数日すると鑑賞し終えた旨の報告があったので感想を求めてみると、
「ヴァイオレットちゃんと結婚したい」
と言っていた。
前々から見どころのある男だとは思っていたが、これほどとはな。
奴はきっと大物になるよ。
閑話休題、消費税の話であった。これは社会にとって深刻な問題だ。今、世の中には暗く重い空気が蔓延している。我々のような下等遊民の生活を地に縛り付けるには十分すぎる2%だからだ。
このままではジリ貧である。手持ちの毒消し草が尽きた状態でバブルスライムの群れに遭遇してしまった、そんな心境だ。運良く逃げられればいいが、失敗すれば毒死は避けられない。教会でセーブなどできもしない我々はこの窮地に立ち向かって、なにかしらの打開策を講じる必要がある。
そういえば君は外食と持ち帰りの税率について気にしていたな。付き合っている彼女が飲食店でテイクアウトすることを固く禁じられた宗教に入信しているそうだが、ちなみにそれはなんという団体だ。その団体の教義にとても興味が湧いた。
だがそれよりも私は、かの国民的駄菓子である“うまい棒”のことを案じていた。あの人類最大のヒット商品が、この度の増税で遂に10円の聖域を守りきれなくなってしまうのだ。これまで幾度となく増税の波を乗り越えてきただけに、一つの時代の終わりを感じてしまうのも無理からぬ話ではないか。