学生時代から向こうっ気が強い折茂武彦さん。しかしこの世代の選手は折茂さんだけに限らず、みんな怖かった。あくまで当時、客として傍観していたイメージだが…。コートにいる選手と観客席から応援する相手チームが言い合う光景もしばしば見られた。そんな闘志むき出しの戦いに、見てるこちらも熱くさせられた。折茂さん自身、今のBリーグを見渡しても「ヤンチャっぽい選手がいなくなっちゃった」と言う。Bリーグを盛り上げていくためにも、人を惹きつける『ストーリー』の重要性を説いている。
ストーリー性が今はない、ワクワク感もない
JBLスーパーリーグの頃(2000年代)、東京体育館や代々木第一体育館でファイナルが行われ、そこが満員になったりしていました。大学のインカレ決勝も代々木第二体育館はいつも立ち見となり、会場に入れずに人が溢れていたし、テレビ東京で生中継してましたからね。やっぱり昔の方が、おもしろかったんだと思います。当然、今の選手の方が技術的に高く、能力のある選手は本当に多い。ですが、そこにストーリー性がない。
例えば、僕と後藤(正規さん/日体大〜三菱電機〜NKK〜アイシン)、僕と北(卓也さん/拓殖大〜東芝/現・川崎ブレイブサンダース ヘッドコーチ)とのライバル的構図がありました。様々な戦いでストーリーが生まれる。だから分かりやすく、お客さんも来る。Bリーグとして田中大貴くん(アルバルク東京)や比江島(慎)くん(シーホース三河)を推してます。確かにバスケットはムチャクチャうまいですし、能力も相当高い。でも、その後ろにあるべきはずのストーリーが全く見えてこない。そこに物語がないと人を惹きつけられないですよね。なんかそういうところが欲しいと思ってしまいます。僕らの時代にあり過ぎたのかもしれないですが、今はそういうストーリーが感じられないです。
当時、後藤とは試合前に目も合わせないし、口を聞いたこともない。佐古(賢一さん/現・広島ドラゴンフライズヘッドコーチ)とも試合中はケンカですよ。大学時代は日体大の応援がけしかけてきて、ウチも柄が悪いじゃないですか、日大なんで。ワァーワァーと言い返す。そういうのがおもしろかった。今はそういうことが全くなくなっちゃったなぁ。僕らの先輩たちもクセの強い人たちがたくさんいて、僕らの世代が黄金世代(ユニバーシアード世界2位)と言われ、そのいくつか下は休廃部の影響からか空洞化して、すぐ田臥(勇太ら1980年生)世代になってしまった。今、対戦していてワクワクすることはないです。見てて感心するほどうまい選手はいっぱいいます。でも、ワクワク感はない。
期待の若手選手への思い、自らの夢
西川貴之(レバンガ北海道#12)も能力が高く、身長も大きくて3Pシュートもある、素材としては非常に良い選手です。ちょっと偉そうに言いますけど、日本代表に入りましたがまだお客さんですからね。だって、日本代表の12人に入ったところでだいたい起用されるのは7〜9人。あとの3人はお客さん。西川はまだその段階であり、試されている選手ですよ。そこを勘違いすることなく、がんばれるかどうかで今後が決まってくる。北海道にアーリーエントリーで入ってきて、すぐに試合で使ってもらったことが非常に良かった。彼は経験できたことで今がある。それを忘れずに、このチームでいろんな形でもっと成長していけば、常に日本代表に入れる選手になれると僕は思っています。
本当にいつ引退しても良い時期に来ているとは思うのですが、46歳までやってるとどこが辞め時なのかはもう自分では分からないです。周りも引退と言えないし、最終的には自分で判断しなければいけない時期が来るとは思いますが、その判断材料がない。自分ではまだできると思ってるし。大きなケガしてドッカンと行っちゃうしか辞め時はないのかな、ってみんなとも話してます。自分が必要とされる限りはプロ選手としてしっかり準備をして、コートに立ち続けたいというのが今の目標ですかね。まだコートにいたいと一番思ってるのが、自分自身ですから。その先にはもちろん優勝を目指さなければいけないですが、現状から言えば相当厳しい。だからそれは次の世代の人たちに託せば良いと思ってます。
(クラブの代表として運営を好転させ、選手として活躍して1億円プレイヤーを目指すという夢はありますか?)
僕ですか?いやぁ〜………1億円はうらやましいねぇ〜。
トヨタ時代の僕の年俸は破格でした。周りのクラブから「折茂にそんなにあげるのは止めてくれ」とチームにクレームが入るほど。それくらいもらっていたし、生活をするにおいて何かを気にすることは全くなかったです。1億円はそのウン倍でしょ!?どんな生活になるのか、全く想像がつかない。
スポンサーと観客動員の部分で運営を安定させていかなければ、人件費を上げていくこともできません。必ず人件費は上がっていくものです。だからこそ、1億円プレイヤーが出るのは良いことであり、運営規模に見合っていれば問題ない。
でも、代表になって思うのは、運営にかかるのはほぼ人件費じゃねぇかって。これは笑い話ではなく、本当の話ですよ!
文・泉 誠一 写真・五十嵐 洋志、泉 誠一