今は三河の勝利のために全力を尽くしたい
ずっと海外志向だった角野にとって正直、Bリーグはあまりよく知らない世界だった。「でも、NBAと比べるとか(Bリーグを)下に見ているとかそういうことは一切ありません」。むしろ大阪エヴェッサでの経験を通してリーグのレベルの高さを知り、「いろんなチームでいろんなコーチの指導を受けてみたい」と思ったという。それも三河への移籍を決めた理由の1つ。三河の鈴木貴美一ヘッドコーチは角野が16歳で候補となった日本代表チームの指揮官であり、「自分のバスケスタイルを認めてくれているという安心感もありました」。それでは角野自身が考える自分のスタイル、さらにストロングポイントはどのようなものだろう。
「自分の強みは得点面にあると思うんですが、僕の中でオフェンス力のある選手というのは2パターンあるんです。1つは自分のできる範囲のプレー、得意とするプレーで勝負して、それを確実に決めていく人、もう1つはその場、その場のひらめきを大事にして、あっ!そんなところでも決めてくるんだと思わせる人。僕の場合はどちらかというと後者に近い。気分が乗ったときはどんなシュートでも決められる感覚になります。だけど、そういう感覚になるのはなかなかなくて、今シーズンで言えばまだ3試合ぐらいでしょうか。それをもっと増やしていくことが目下の課題でもあります。また、今はピック&ロールが主流となってきている中で、僕はやっぱり1対1にこだわりたいんですね。シュートで言えば3ポイントやゴール下の確実性を上げるのはもちろん大事ですが、ミドルレンジのシュートを着実に沈められる選手でありたいと考えています。これは中学生のころNBAでコービー(ブライアント)が微妙な距離からスパスパ決めるのを見てあこがれたせいもあるんですが、3ポイントラインから攻め始めて1人抜いて前にいるセンターに接触する前に打ち切るみたいな。そのタイミングは自分が得意とするところで、自分のスタイルだという意識もあります」
三河のブースターが期待する『日本人エース』の呼び名はその先にあるということだろうか。
「そうですね。まずは三河を勝たせられる選手になること。チャンピオンシップ進出、リーグ優勝とチームが掲げた目標にしっかり貢献できる選手になりたいです」
アメリカ時代を振り返れば、ディビジョン1の大学からオファーを受けられなかったとき、何のためにアメリカまで来たんだろうと自問し、結局、自分は井の中の蛙にすぎなかったのかと嘆いた。だが、実はこの “井の中の蛙” のことわざには続きがある。『井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る』── 狭い世界しか知らなかった者が、それでも努力を重ねることで世界の深さを知っていくという意味だろうか。ゆっくりそらんじてみると、サザンニューハンプシャー大で過ごした角野の4年間が見えてくるような気がする。
三河の新エースを目指して「自分は必ずもっとやれると思っています」と言い切った角野の頭上に広がるのはまだ見ぬ青い青い空だ。
シーホース三河 #18 角野亮伍
されど空は青
前編 試合に負けても『角野はすごい』と言われることが嫌だった
後編 折れそうになる心を支えてくれたもの
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE