琉球のホームゲームの試合後には、選手と子供たちのハイタッチイベントというものが存在するのをご存知だろうか。
試合の配信が終了し、お客さんが会場をはけた後くらいのタイミングでひっそりと行われており、選ばれしご子息、ご息女のみが参加できるといったものなので、意外と認知されることの少ないイベントかもしれない。
段取りとしては、試合が終了して間もないコート上で待機する数十名の子供たちのもとへ、ランダムに選ばれた一人の選手が現れ、MCの方と少しばかり軽妙なトークを繰り広げた後、順にハイタッチして適宜解散とする、というものだ。
僕はこれまでに一度だけこの催しのご指名を賜わったことがあるが、直前の試合結果如何ではこれがべらぼうに難易度の高い任務となることを痛感させられた。
試合に勝った後であればもちろん気分がよく、饒舌なことも多々あるため、なにを意識せずともペラペラと言葉が飛び出してくる(これにより、公開前の情報を口走るなどの不適切な発言が後を絶たない)が、試合に負け、さらには自身の調子も散々といった日にはMCに返す言葉が見当たらない。
僕はまさにそんな日に当たってしまったように記憶しているのだが、敗戦の弁を口にするにも目の前にいる子供たちは悲哀のこもったコメントなど望んでいないような気がするし、かといっていつも通りふざけるには不謹慎がすぎる。
結果としてなんだか訳の分からないことをのたまっていたように思うが、「訳の分からないことを言う人」というイメージはだいぶん定着していた時期のはずなので問題はなかったかもしれない。
けっこう前の話になってしまって恐縮なのだが、琉球のチームにケビンジョーンズという選手がいたことがあって、彼がハイタッチイベントに臨んだときのコメントがとても印象的だったので紹介したい。
まだチームに合流して日が浅い時期だったこともあって、MCもセオリー通りの質問でお手並み拝見と言った構えだったらしく、「沖縄の印象はどうですか?」「生活には慣れましたか」という問いかけに愛想よく「イエス」「トテモキニイッタ(意訳)」などと答えていた。
期待通りの好反応を受けてさらに一歩踏み込んだMCが、「沖縄の食べ物でなにが一番好きですか」と聞くと、ケビンジョーンズはノータイムで
「キョートラーメン」
と答え、会場が軽くざわついたという。
僕はこの場にはおらず、人づてにおもしろい話があると聞いただけだが、僕なんて敗戦後で錯乱していたためか、「紅白歌合戦の結果もそろそろ出たことですしね」とか訳の分からんことを小学校に入るか入らないかくらいの子供たちに真面目な顔をして語りかけていたので、それに比べたら大したことないと思う。