「忘れもしません。あれは4月10日のことでした。SNSで『写真集を作ってみたい』と呟いたら多くの反応があって、これだけリアクションがあるなら挑戦してみたいと思いました。ただ、挑戦したいとは思うけれど規模が規模なので、私一人の力だけでは無理な話です。そこでまず出版元にこの構想をプレゼンして賛同していただいて、出版元がついたことでBリーグから承認を得ることもできて、いよいよ挑戦できるところまできました。それが8月の末のことです」そう語るのはフォトグラファーの安井麻実さん。達成に向けてラストスパートをかけるプロジェクトで、この写真集にかける想いをあらためて伺ってきた。
【B1所属の18クラブを1冊の写真集に!選手たちの”想い”を写真で伝えたい。】
https://readyfor.jp/projects/BBS_ArtBook_Project
── 写真集を作ろうと思ったきっかけを教えてください
写真集は本格的に写真を撮り始めたころから、“表現したいものが撮れるようになったら挑戦したい”と考えていましたが、いくつもあるきっかけのうちの1つは、1月からの1ヶ月間、ロサンゼルスでNBAを取材したことです。NBAは「1クォーターが12分×4」で、Bリーグより撮る時間が長い。それを楽しくこなせたのはすごく自信になりました。あとは、ほとんど誰も知らなかったNBA選手たちを「撮りたいように撮れた」ことも大きかったです。選手一人ひとりの“らしさ”みたいなものを引き出すような写真を撮りたいと心がけているので、本当であればお話したりとか、声を聞いて選手がどんな人なのかとか、とにかくよーく観察したいんですけど、実際全員はできないですよね。ですがこのNBAでの経験で、本当に撮りたい気持ちと集中力があれば、撮れるんだと感じました。そして、これができるのであれば、写真集にも挑戦できるんじゃないかって。
── そこから実際に行動を開始するわけですが
写真集を撮ると決意した時点でどんどんイメージが湧いてきて、4月からずっと写真集の仕様を想像してきました。実現には来シーズンからでは間に合わないとは思ったものの、何から手をつけて良いのかわかりませんでした。Bリーグ、B1全部を巻き込んでのプロジェクトですから、権利のことなど、確認しなければいけないことがたくさんありました。昨シーズン最後のあたりにクラブ広報の方にもアドバイスをもらって、Bリーグに確認にいったのがファイナルが終わった直後でした。初めてBリーグ本体にこの企画を相談したときには、「ぜひ素晴らしいものを作って欲しい」とのお言葉をいただいたんですよ。が、実際動いてみると様々な点を話し合わなければならず、打ち合わせは3、4ヶ月に渡りました。結果論ですけど、昨シーズンが終わる前に動き始めたのは本当にファインプレーだったと思います。
── クラウドファンディングという方法を選んだのは
最初、制作のために必要な金額は1000万円と考えていたのですが、自分が負担できるところを洗い出して、890万円に設定しています。それでも、目標額を達成するのが難しいということは変わらないので、いろいろな人にヒアリングもしました。890万円は大金です。こんな高い金額でいいのかと考えましたが、自分で納得のいく、カッコイイ仕様にしたかったし、内容も妥協したくなかったんです。1万円を超える写真集を買うことは普段なかなかないことかもしれませんが、私は写真の持っている力を信じてるし、写真の価値、“目に見えないモノの価値”を、もっとたくさんの方に知ってもらいたいと考えています。890万円はあくまで制作費。本来モノが作られるときは、制作者のお給料もその価格に入っていますよね。ですが今回は、とにかくこの写真集を“創る”ということに目標を置いています。今はない市場を作りたいんです。クラウドファンディングという場で始めることによって、モノができる過程であったり、どれだけの人が1つのモノ作りに携わっているかとか、そういったことも伝わればいいなと思います。写真集自体の値段だけではなくて、そこに関わった人の熱い想いにこそ価値があるんです。その考えに共感してくれる人を集めたいと思いました。「想い」が発信源の写真集だからこそ、夢を応援する場所である“クラウドファンディング”という形式にしました。
── プロジェクトを立ち上げてからは、どんな反応がありましたか
「写真集を作りたいな」とモジモジしていたときから応援してくれている方が結構いて「待ってました!」みたいなメッセージをたくさんいただきました。中には長文のものもありましたし、実際にお会いしたことがない人からも、「実はいつも安井さんの写真を楽しみに生きています!」とメッセージをいただいたり。これは、バスケットボールスピリッツを通して、作品をお届けできていたからこそだなと、本当に感謝の想いが湧き上がりました。皆さんからの温かいメッセージに日々励まされ、頭を抱えるような打ち合わせも乗り越えられました。クラウドファンディングの公開初日がものすごくて、ready forの担当者さんも驚いてたんですよ。「スタートはどれも伸びやすいですが、こんなに伸びているのは見たことがない」って。初日は特に緊張してたんですが「リターンが購入された」という通知が鳴り止まなくて、その日は支援してくださった方の応援コメントに返信を書きながら、ずっと泣いていました。本当に忘れられない幸せな時間でしたし、この人たちのために頑張りたい!という気持ちも大きくなりました。支援してくださっている方は制作チームの一員であり、私の支えです。