予選全ての日程を終えた会場は閑散としている。客足も引き、巨大なアリーナがぽっかりと何もない、がらんどうになったと感じるほどだ。先ほどまでの熱狂はすっかり消えた。この会場で、ついに日本は勝利を手にすることができなかった。つわものどもが夢の跡、という言葉を思い出した。
人気の少なくなったアリーナで、大会期間中はフォトグラファーが行くことのないミックスゾーンのほうへ行ってみた。このアリーナには選手がロッカーから外廊下を回りミックスゾーンを通過してフロアに入ってくる通路がある。ゲーム直前の入場ではなく、それよりもずっと前に各選手がアップのために歩いて入ってくる通路だ。その途中の壁に大きくプリントされている文字があった。
“THE WORLD’S GOT GAME”
壁面のみならず、アリーナのエントランスやサイネージなどいろいろな場所にこの文字が踊っている。英語が堪能な人に聞いても、この一文を日本語に翻訳するのは難しいという。これは大会のコピーとして作られたものなのだろう。日常的に使うフレーズで、こういう言い回しはないそうだ。
例えば “He’s got game” というと、「彼はできる奴だよ」というような意味になるらしい。“You’ve got game!” なら「お前はできる!」だ。だとすれば “The World’s got game” は、「世界よ、お前はできる!」だろうか。何だか、世界中のバスケットファンの視線が注がれるワールドカップに相応しい気がするではないか。
今回のFIBAワールドカップは世界中で中継、配信されている。当然のように、出場国の国民はもちろん世界のバスケットボールファンが注目している。それは、注目に値する選手が集まる注目に値するチームが、世界最高峰のレベルのゲームを繰り広げるからに他ならない。
今や世界各国にNBAプレーヤーを擁する国があるのだが、とはいそれぞれの国のトップ選手が集まる機会は限られる。代表招集の機会というのは、そんなにしょっちゅうあるものではない。それだけに代表チームのゲームというのは、バスケットファンにとっては絶対に見逃せないものなのだ。
日本でもサッカーを思い浮かべてもらえれば分かりやすい。サッカー日本代表が初めてワールドカップ出場を決めたときなど、市井のサッカー評論家がこれでもかと現れ、ネット上でああでもないこうでもないと言い合っていたものだ。それくらい国中が熱狂した。それは今に続く、サッカー日本代表への国民的関心の礎にもなっている。
実のところ世界では、バスケットがサッカーに次ぐほどの人気スポーツだという国がいくつもある。そういう国には、わざわざ遠い外国まで行って我が国の代表をサポートしようという熱狂的なファンたちがいる。
トルコがUSAを最後の最後まで追い詰めたゲームでは、現地のオーディエンスを巻き込んで、トルコ代表をサポートする地鳴りのような声援が会場を揺らした。チェコがトルコに勝ち二次予選進出を決めたときは、本国から駆けつけた大勢のファンの元へ選手が駆け寄り、一緒になって歓喜した。これがワールドバスケットボールだ。ゲームのレベルはもとより、ファンの熱狂や代表チームへの愛もまた、凄まじい。
今大会では日本からもたくさんのファンが上海に駆けつけ、代表に声援を送った。八村や馬場のダンクが決まったときの割れんばかりの歓声は、今も耳に残っている。USA戦では日本国内での地上波中継も実現し、国民に愛される代表にさらに近づいたんじゃないだろうか。