── でも、入ったのは剣道部じゃなくてバスケット部だった。
そうなんですよね(笑)。それには理由がありまして、僕には1人だけ話ができる幼なじみの子がいたんですけど、その子が夏休みに「これおもしろいよ」と言って『スラムダンク』を貸してくれたんです。
── 言わずと知れたバスケ漫画の傑作『スラムダンク』ですね。
はい。井上(雄彦)先生のスラムダンクです。読んだらめちゃくちゃおもしろくて、バスケってなんてかっこいいんだろうと夢中になりました。
── それで剣道からバスケットに路線変更?
変更しました(笑)。もちろんバスケもやったことはありません。でも、とにかくバスケのかっこよさに魅せられたんですね。で、高校に入ったら絶対バスケ部に入ろうと決めたんですが、そのときは夏なので(高校入学まで)まだ時間がありますよね。でも、今の気持ちを何かにぶつけたい。何かに表したいという思いがものすごくあって、それで描き始めたのが女子バスケット部を題材にしたマンガです。まだ「マンガ」とは言えないような稚拙なものでしたが、大まかなストーリーとか主要人物のキャラとかを考えて描いてましたね。
── それがのちの『ECHOES』の原型になっているわけですか?
そうです。先ほど言ったように当時はマンガとは呼べないようなものでしたが、主要人物のキャラは今とほとんど変わってないんですよ。
── 『ECHOES』の主役である青は心と体の性が一致しないことに悩む高校生として描かれています。当時考えていたキャラも同じだったのでしょうか。
当時からボーイッシュなイメージで描いていましたが、青はあくまでも“女の子”でした。トランスジェンダーという設定にしたのは自分自身のセクシャリティを自覚してしばらくしてから、23歳のころだったと思います。中学生のときはトランスジェンダーという言葉すら知らなかったし、自分がそれに当てはまるのかもわからなかったですから。ただ、性に対する違和感はずっと持っていて、それこそ幼稚園のころから制服のスカートを履くのが嫌でした。フリフリしたかわいい服やリボンや、そういうのを身に着けることがすごく嫌だった。あれっ、自分は周りの女の子とはどこか違っているなあというのは本当に早くから気がついていたと思います。でも、それを口に出してはいけないと思っていました。幼心に「それは誰かに言ってはいけないこと」だと思っていたんです。
── 小学校で場面緘黙になったのもそのことと関係しているのでしょうか? 本当の自分を出してはいけないというブレーキが心のどこかにあったとか。
それは自分でもわかりません。ただ周囲と自分の間に違和感があったのは事実で、自分が“異性”として惹かれるのは男子じゃなくて女子だったし、自分が“普通の女の子”とは違うというのははっきりわかっていました。人に言えないモヤモヤをずっと抱えていたのはたしかですね。自分が変われたのは高校から。やっぱりきっかけはバスケットだったと思います。
part2「明日何が起こるかわからないなら、僕しかできないことをやって死にたいと思いました」へ続く
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女子バスケ漫画「BREAK THE BORDER」続刊制作プロジェクト
文 松原貴実
写真 バスケットボールスピリッツ編集部