『ECHOES・BREAK THE BORDER』の作者、歩さんに聞く。

バスケットが僕の人生にもたらしたもの part1

宝島社が主催する『このマンガがすごい!』大賞の第7回最優秀作品賞に輝いた『ECHOES』というマンガをご存知だろうか。舞台となるのは新緑高校女子バスケットボール部。1年生の青(せい)と飛鳥を軸に、ぶつかりあいながらも心を通わせ成長していく高校生たちの物語だ。その中で特徴的なのは、主人公の青が自分の“性”について悩むトランスジェンダー(心と体の性別が一致しない人)として描かれていることだろう。ここには幼少期から「同じ女の子でありながら、私は周りの友だちとは何かが違う」と感じていた作者、歩さんの経験と葛藤が投影されている。

今回の取材で出会った歩さんはダークな色合いのジャケットを羽織った華奢な男性という印象。語る一人称も「私」ではなく「」だ。女性として生まれながら、男性として生きることを選択した歩さんの人生にバスケットがどう関わってきたのか。その道程を振り返りながら、『ECHOES』を通して伝えたかったもの、さらには今回手掛けた『Wリーグオールスター』(2020年1月19日開催)のポスターの話までたっぷりと語っていただいた。

「小学3年生から学校でしゃべることができなくなりました」

── 歩さんのご出身は北海道だとお聞きしました。どんなお子さんだったのですか?やはり絵を描くのは子どものころからお好きだった?

絵を描くのは物心ついたときから好きでした。時間があればずっと描いていましたね。特に小学3年生ぐらいから僕は友だちと全然しゃべれなくなってしまって…。『場面緘黙(ばめんかんもく)』というらしいんですが、家族とは普通にしゃべれるのに学校へ行くと誰とも話せない。授業で当てられたときは答えるし、教科書を音読することもできるのに友だちと会話でコミュニケーションを取ることができなかったんです。みんなと話したいという気持ちはすごくあるんですよ。でも、いざ友だちの中に入ると言葉が出てこないんです。それで休み時間はほとんど絵を描いて過ごしていました。覚えているのは『ゼルダの伝説』というゲーム。4年生のころはゲームにはない物語を勝手に想像してずっと描いてました。自分の世界じゃないですけど、絵を描くことは本当に楽しかったです。

── それはいつごろまで続いたんですか?

中学3年まで続きました。自分では『暗黒時代』と呼んでいるんですが、今思っても結構苦しかったですね。

── たしかに想像するだけでもそれは苦しい。

中3のときに「これでは自分は人と一生しゃべれない。なんとかしなくちゃ」という気持ちが強くなって、そのせいかもしれないですけど自分が剣道をやっている夢を見たんです。

── 剣道ですか?

はい、剣道です。今までやったこともない剣道の夢を見ました。自分なりの推測ですが、剣道って心身を鍛え直すイメージがあるじゃないですか。そのとき自分は心身を鍛えて今の自分を変えたいって本当に強く思っていたんだと思います。それが剣道をやってる自分になって夢に出てきたのかなと。その夢を見て、高校に入ったら剣道部に入ろうと決めました。人に言ったら笑われるかもしれませんが、そのときは本気でしたね。

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