昨シーズン、少しずつだが視野が広がり、ポイントガードとして落ち着いてプレイし始めていた富士通レッドウェーブの曽我部奈央選手。2年目を迎え、その成長に期待し、とどろきアリーナでのホーム開幕戦となった11月4日のゲームを取材。そこで見た曽我部選手は、ポイントガードではなくなっていた。20点差をつけ、富士通レッドウェーブが終始セイフティリードする展開の中、ベンチから起用される。センターの篠原恵選手と交代したり、山本千夏選手、町田瑠唯選手、佐藤梓選手とともに4人のガードが一緒にコートに立つなど、精力的に走り回っているがポジションがハッキリしなかった。
ネガティブ思考で消えた笑顔
「今は2番(シューティングガード)が多いです。たまに1番(ポイントガード)」
バスケットボール・スピリッツでは有望な若手選手を特集する11月であり、女子U-23日本代表として今夏は活躍し、女王JX-ENEOSサンフラワーズ戦の第2戦では13点を挙げた曽我部選手に注目。しかし、ポジションが定まらない状況にこちらが驚かされている以上に、曽我部選手自身が困惑していた。
「ずっと不調が続いていて、調子が上がらないから、最近は全然ダメです。原因は難しいですが、プレイ中にいらないことを考えすぎているんだと思います。考えるタイプではないのに、シュートを入れなくちゃとか、相手を抜かなくちゃ、しっかりディフェンスしなくちゃ、といろんなことを考えてしまってうまくいっていないんだと思います」
迷いとともに小滝道仁ヘッドコーチからの信頼も薄れ、プレイタイムが減っていった。開幕から最低限の得点を挙げていた曽我部選手だったが、11月4日、5日のアイシンAWウィングス戦はいずれも無得点に終わる。話を聞き進めていけば、迷宮に迷い込んだ状況であり、出口が見えない。
「練習中のゲームではシュートも入るし、すごく良い動きはできているんです。でも、試合になるといろいろ考えすぎて、自分のシュートが分からなくなって、シュートを打つのが怖くなって、いろんな人に任せてしまうところがあるからプレイタイムも全然もらえないんだと思います」
そんな曽我部選手の不調を気遣うように三谷藍選手が、試合後すぐさま話を聞き、アドバイスを送ってくれたそうだ。
ネガティブなことばかり考えているせいか、いつもの明るい笑顔が封印され、強張った表情でのプレイが続く。対戦したアイシンAWの一色建志ヘッドコーチは、曽我部選手の出身校である聖カタリナ女子高校時代の恩師でもある。「一色先生の前だったからこそ、うまくなった姿を見せたかったのに、何もできなかった。すごい情けないなって……」と涙を見せた。
女子の涙に男は弱い。この後、励ましていたつもりが、もしかしたら傷に塩を塗り込むようなことを言ってしまったかもしれない。このインタビューを聞き直してみると、混乱した筆者は同じような質問を繰り返してしまっていた。
世界を見据える女子バスケはチーム内から競争激化
スポーツに涙はつきものだ。勝利のうれし涙に、敗れた悔し涙。それらは大概、クライマックスを迎える試合で見られるものである。しかし、開幕から1ヶ月しか経っていないにも関わらず、曽我部選手は悔し涙を抑えきれなかった。
女子日本代表がリオデジャネイロオリンピックでベスト8入りし、世界の強豪国として名乗りを上げた。チームメイトで同じポジションの町田選手は、すでにオリンピアンであり、そこに勝たなければ富士通のポイントガードの座も奪えない。チーム内での激しい競争が起きるからこそ、女子バスケは強いのだとあらためて感じさせられた。
考えるタイプではないはずの曽我部選手。1試合でも早く吹っ切れていただき、再び笑顔を見せてくれる日を心待ちにしたい。会場に行けば選手たちの情熱が感じられるWリーグ。世界と戦う女子バスケの会場へもぜひ足を運んでいただきたい。
文/写真・泉 誠一