コーチ業に転身する選手も多い男子バスケット界に比べると、女子はWリーグでプレーした選手でも、引退するとそのままフェードアウトしてしまうケースが目立つ。いわゆるセカンドキャリアに対する男女の考え方の違いもありつつ、トップリーグだけを比較してもBリーグが55クラブ、Wリーグが14クラブという受け皿の大小も影響しているだろう。何かしらの形でバスケットの世界に残る上でも、女子の門戸は必ずしも広くない。女子選手は引退が早い傾向もあり、ファンが今後を期待していたタイミングで表舞台から姿を消してしまうことも多いというのが現状だ。
その意味では、3×3という舞台が用意されている今は、選手にとってもファンにとってもありがたいことだ。Wリーグや社会人リーグから離れた選手が、プレーの機会を求めて新たな舞台に身を移すことも増えてきた。
日立ハイテククーガーズで7シーズンプレーした白鞘郁里は、かねてよりチームや自身のSNSでそのキャラの一端を垣間見せてきたが、2022-23シーズンのWリーグオールスター初出場で存在が広く知れ渡り、これからのパフォーマンスに注目は高まる一方のはずだった。そんな矢先に、昨シーズンのオールスターでWリーグからの引退を表明。ファンにとってはまさかの出来事だったに違いないが、そこにはこんな事情があった。
「2月に会社の方と話し合って決まりました。嚙み合わせの手術を本当は4月にする予定だったんですけど、6月しか空いてなくて、1年延期するか、ここで辞めるかという判断だったんです。でも、大きな手術だったので延期は個人的にしんどくて。チームもヘッドコーチが代わって、メンバーも結構変わって今までと違うチームでいくというのがあったので、そこのよーいスタートに私がいないとなると、チームとしてはそれなら他の戦力が入ったほうがいいということになって、それで私が身を引いたという感じですね」
自身のSNSでも公表された「嚙み合わせの手術」は、長年の悩みを解消するために不可欠なものだったが、それ故にチームの始動に合流できなくなり、Wリーグでのキャリアにも終止符を打つ結果となったというわけだ。ファンも抱いたであろう不完全燃焼感は本人にもあり、このタイミングでWリーグを離れることを「私も悔しかったです」と吐露する。
しかし、Wリーグ引退からほどなくして、白鞘の姿は再びコートの上にあった。7月27日の3XS(トライクロス)の開幕ラウンドに、FLOWLISH GUNMAの一員として初お目見えした白鞘は、9月14日の3×3 JAPAN TOUR EXTREMEにも同チームから出場した。「もうちょっとやりたかったので、まだできるぞというのを見せたくて」と言い、3×3に加えて5人制もクラブチームや国体成年女子チームで続けているということだ。
3×3を始めたきっかけは、FLOWLISHからの誘いだった。声をかけたのは、同い年で高校や大学でも対戦し、面識のあった髙橋芙由子。髙橋が白鞘のWリーグ引退を知ったのは、3×3.EXE PREMIERの選手登録には間に合わないタイミングだったが、その他の試合には出場できるため、「私も勢いを作れるほうだと思うんですけど、彼女はちょっと次元が違う(笑)。うちのチームは気持ちの部分を一番大事にしてるので、そこにフィットするという期待値を持って」(髙橋)と白鞘に声をかけた。