2022年のゴールデンウィークが終わった。
その期間中、町田瑠唯はWNBAデビューを果たした。開幕戦に16分57秒出場し、2得点・2アシスト・2リバウンド(日本時間の今朝=5月9日におこなわれた試合でも18分44秒の出場で3アシスト・4リバウンド)。ディフェンスでもサイズの不利を感じさせることはなく、むしろフィジカルの強さや巧みなボディコントロールを安定して出せていたように思う。総じて順調な滑り出しと言っていいだろう。
その直前、5月3日から5日までは、ワシントンから西へ10,439キロ離れた秋田県能代市で3年ぶりの「能代カップ」も開催されている。あの県立能代工業の血を引く県立能代科学技術は4戦全敗に終わってしまったが、要所で繰り出したゾーンプレスからのゾーンディフェンスは相手のリズムを壊すことにも成功していた。まだまだ未完成ではあるが、どこかニヤリとするような懐かしさも感じられて、このチームはまだ死んでいないな、と思わされた。
今年度のキャプテン、相原一生の「(能代)工業の魂を引き継ぎたい」という言葉も印象的だった。相原ら3年生は “能代工業” のバスケットを肌で知る最後の選手たちである。新しい校名の、新しい文化を築くべき若者たちが、能代工業の伝統を受け継いでいこうというのだから、心をグッとつかまれた。結果は地元市民やファンが望むものとは大きくかけ離れてしまったかもしれないが、もがきながらも、懸命にボールを追い、ゴールを目指す姿勢を、その結果だけで笑うわけにはいかない。
うまく休みを取れば最大で10日間にも及んだ今年のゴールデンウィーク。その最終日に向けてクライマックスを迎えていったのが男女の関東大学トーナメントである。男子は専修大学が18年ぶり2度目の、女子は東京医療保健大学が2年連続4回目の優勝を果たした。個の力を生かしたオフェンス偏重のチームだと思っていた専修大の強固なチームディフェンスは、彼らが新時代を築こうとする息吹を感じさせるものだった。東京医療保健大学もまた、恩塚亨・前ヘッドコーチ(現・女子日本代表ヘッドコーチ)がチームを離れてもなお、「ワクワクが最強」を貫き、多彩なバスケットを披露し続けていた。
その一方で注目したいのは男女の山梨学院大学である。男子は6位、女子は5位に終わったが、男子は今秋から関東大学リーグで2部に上がるチーム。選手も高校時代に全国大会に出るか、出ないか。出ていても、1、2回戦で終わるようなチームのエースたち。関東女子1部リーグに属する女子だって、知名度の高い高校からの選手はいるものの、そのほとんどがエース級の選手ではない。それでも勝ち上がっていくところに、バスケットがチームスポーツであることの醍醐味を感じさせられた。むろんまだ5月である。どのチームも完成形には程遠いのだが、下位に位置するチームが上位の一端に触れたことは、これからの大きな自信になるはずだ。
男子の山梨学院大学を率いて3シーズン目となる古田悟監督は「(3月におこなわれたルーキーズトーナメントと合わせて)2大会連続の6位です。私は彼らに関東2部でも優勝できる力があると思っていました。それだけの力があると証明できたと思います」と胸を張る。就任当初は規律も何もないチームだったが、「僕は彼らの生活にも口を出すし、遅刻も許しません」とチーム文化の土壌から作り直した。自らを「古い人間」だと認める古田監督だからこそのチーム作りがそこにはあった。
急速に変わりゆく時代の中で、すべてを時代に合わせた、新しいものにすればよいわけではない。古きをたずねて新しきを知る。Wリーグが一足先にファイナルを終え、B.LEAGUEがここからチャンピオンシップの佳境に向かおうというなか、“温故知新” の大切さを改めて知るであろう若者たちの2022年度が幕を上げている。
文 三上太
写真 三上太、泉誠一