日本と韓国の大学選抜チームが対戦する李相佰盃が5月19日~21日まで太田区総合体育館において開催された。歴史あるこの大会でこれまで30勝82敗3分と大きく負け越していた日本だが、最後まで予断を許さぬ展開となった第1戦、第2戦を粘り強いバスケットで勝ち抜くと11年ぶりの優勝を果たした。さらには第3戦もスタートから10-0のランの快進撃を見せ93-84で勝利。1990年以来27年ぶりとなる3連勝で大会を締めくくった。なお、今大会は9年ぶりに女子戦も行われ、こちらは90-33、87-45、85-32でいずれも日本が圧勝。男女揃って3連勝という大会史上初の快挙に沸く会場で陸川章ヘッドコーチ、ポイントガードとしてチームを牽引した齋藤拓実(明治大4年)の話を聞いた。
「ルカコーチに心から感謝したい」(陸川章ヘッドコーチ)
選手たちは本当によく戦ってくれたと思います。特に今日は優勝を決めたあとの1戦で、普通ならややモチベーションが落ちるところ、加えて昨日の試合で足を打撲した馬場(雄大)を欠いての戦いだったのですが、すばらしいスタートダッシュを見せてくれました。試合前に話した「エース(馬場)がいなくてもこれまで培ってきたチーム力で戦おう」という姿勢を最後まで貫いた選手たちを褒めてやりたいです。
次に伝えたいのはルカ(パヴィチェヴィッチ日本代表テクニカルアドバイザー)コーチへの感謝のことばですね。3月から行われたスプリングキャンプで我々はルカコーチにみっちり鍛えられました。細かな技術指導はもちろんのこと、バスケットに対する考え方、姿勢、戦うためには何を大事にしなくてはいけないのかといった選手としての基本、またチームのベースになる多くのことを学べたと思います。先ほど“我々„ということばを使ったのは、鍛えられたのは選手たちだけではないということです。選手と同様に我々コーチングスタッフも学びが多い有意義な時間を過ごすことができました。ルカコーチには本当に感謝しています。
また、今回は日本バスケットボール協会、全国大学バスケットボール連盟、関東大学バスケットボール連盟のバックアップを得て韓国に遠征することができました。対戦したのはKBL(韓国バスケットボールリーグ)のプロチーム、主力と外国人選手はいませんでしたが、バックアップメンバーといえども力のある選手は多くレベルが低いわけではありません。そこで3勝2敗の成績を残せたのも選手たちの自信になったと思います。大変いい経験ができました。
このチームは明るく気持ちのいい選手が揃っています。リーダーとしてチームを引っ張ってくれるのは齋藤でしょうか。キャプテンは杉浦(佑成・筑波大4年)ですが、彼はどちらかというと自分の役割をきっちりこなす仕事人タイプ。エースの馬場は(日本)代表活動で抜けることもありましたから、齋藤がコートの中でも外でもよくまとめてくれたと思います。また、2年生ながらゴール下で頼もしさを発揮したのは平岩(玄・東海大2年)、彼は日本代表候補にも選ばれて上のレベルで揉まれたことがいい財産になり、ぐんと安定感が増してきました。同じ2年生の中村(太地・法政大2年)も力をつけてきた1人ですね。シックスマンとして流れを変える働きをしてくれました。
他の選手にも言えますが、私が今回評価したいのは、INTENSITY(激しさ)、AGGRESSIVE(積極性)、SOLIDNESS(堅実さ)というルカコーチが目指すバスケットを全力で遂行した点です。当然、まだ発展途上にいる選手たちですからミスもあるし、力負けする部分もありますが、それでも自分たちが何を目指してプレーしているのかというのを忘れることなく、ぶれることなく戦う姿に成長を感じました。その成長があってこその3連勝だと思っています。
「このチームで経験したことが大きな自信になった」(明治大4年・齋藤拓実)
陸川ヘッドコーチが「このチームのリードオフマン」と評した齋藤拓実は第3戦で22得点5アシストをマークした。持ち前のスピードを生かして中に切れ込んだと思うと、外からも高確率でシュートを沈める。何より光ったのは韓国のディフェンスを翻弄する鮮やかなパスさばきだろう。試合後、韓国メディアが真っ先に取材に駆け付けたことからも注目度の高さが窺えた。
まず3連勝できてよかったです。1、2戦に勝利したことで優勝が決まったので、今日はモチベーション的に難しいかなと思っていましたが、陸川コーチが声をかけてくれ、サブアリーナでアップするときもみんなが互いに鼓舞し合って、集中してゲームに入ることができました。それがスタートの10-0のランにつながったと思います。(スプリングキャンプでは)ルカコーチにボールムーブの部分を細かく指導されたこともあり、みんながそれを意識してどんどんアタックしていったことでいい形でボールが回りました。そこからスムーズなローテーションが生まれ、自分がミスマッチをついていくことで相手のディフェンスが収縮する。収縮したところでキックアウトといういい流れが展開できました。そこは自分も常に意識していて、いい形でパスがさばけていたように思います。
ルカコーチの指導は本当に細かくて、たとえばオフェンスだったらパスをもらう位置まで教えられ、もらう場所を間違えるとすごく怒られる。でも、それには理由があって、練習を通してそれが全てにつながっていることがわかってくるんですね。だから、1つひとつ納得してプレーできました。個人技もそうですけど、チームプレーについてすごくいろんなことを教わったと思います。それが身になっているなと感じたのは韓国遠征のときで、みんなが同じように実感できたことでチームの団結力がまた1つ高まったような気がします。
代表に選ばれたのは今回が初めてですが、やっぱりレベルの高い選手が集まっているので刺激になりました。代表という責任も感じたし、自分のチームでやるのとはいろいろ違う感覚もあって楽しかったです。たとえば今回は秋山(煕・専修大4年)とツーガードで出た場面があったんですが、秋山はどちらかというと攻撃的なポイントガードなので、その分自分がしっかりコントロールしなきゃと思ってました。タイプは違いますが、2人でディフェンスを頑張ることで速攻も多く出せたし、そういう経験もすごく楽しかったです。
僕は172cmですが、相手が大きければ大きいほど自分のスピードやハンドリングを生かせると思っています。実際3月の韓国遠征でも自分の持ち味を生かした試合ができたので、それが自信になりました。だから、この大会も自信を持って臨めたと思います。今回の経験を通して学んだことを無駄にせず、さらに自分を磨いて将来はBリーグでプレーしたいと思っていますし、2020年の東京オリンピックも意識しています。そういう大きな目標を持って頑張っていくつもりです。
第40回李相佰盃
第1戦 日本74-70韓国
第2戦 日本80-77韓国
第3戦 日本93-84韓国
おまけ
韓国メディアの取材を受けた齋藤選手、「君は近くで見るとなかなかイケメンだね。女性ファンも多いんじゃない?」と変化球の質問を受けたが、動じることなく「多いですね!」と笑顔で答えていた。コートの外でも自信あふれる頼もしいリーダーでした!
文・松原貴実 写真・三上 太