東京2020オリンピックまで1ヶ月を切り(取材時)、開幕に向かって急に速度が上がったように感じる。1年延期となったことで見えにくかったゴールが突然目の前に現れ、ラストスパートをかけた──そんな状況である。東京大会から新種目として採用される3×3バスケットボール(スリー・エックス・スリー/3人制バスケットボール)の会場で準備を行う東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)の安田美希子さんも、「ここ数日で一気に忙しくなりました」とギアを上げていた。
まだまだコロナ禍の出口が見えず、オリンピックに対する世論の向かい風は依然として強い。しかし、開催すると言われている以上、現場はその歩みを止めるわけにはいかない。オリンピックに懸ける思いはアスリートと同じであり、変わらぬ熱量で取り組んでいる。安田さんは、組織委員会に入る前から3×3に深く関わってきた経歴の持ち主。彼女だからこその立場で、オリンピックが開かれることの意義について丁寧に話してくれた。
「競技者としてはじめたからには負けたくない、上手くなりたい、強くなりたいというマインドが心のどこかにやっぱりあるじゃないですか。ただ、どこかで挫折したり、あきらめたり、妥協したりしながら自分なりの違う楽しみ方を見つけていくものであり、それは全然良いことだと思っています。私もそうでした。日本代表になりたかったわけではないし、仲間と一緒にバスケすることが楽しいと、軸足を変えることは全然ありです。
でも、この世の中に3×3を普及し、認知させていくためには、やっぱりキラキラ輝く場所も必要かなと思っています。そう考えたときに、オリンピックはアマチュアアスリートたちの目指すある種の一番高い場所であり、新たに正式種目として選ばれたからには、絶対に成功させたいという思いがあります。
もちろんコロナの状況もあって、いろんな考え方があるのも当然です。でも、現場では考え得るだけの対策をし、感染者を出すことなく安全に運営することは、これまで準備してきたディテールの一つひとつの積み重ねでしかなし得ません。だからこそ、妥協してはいけない。世の中が不安に思っているからこそ、ここまでやっているんだという気持ちで取り組もうと、常々スタッフには言っています。
安全に開催していこうという自信はあります。コートを360度ぐるっと囲んだ観客席ができ、屋根膜や大型ビジョンも設置し、照明やプロジェクションマッピングでの演出もあり、圧巻の会場です。ここで大会を成功させて、そしてメダリストを出したいんです。もちろん、それが日本人選手だったらさらにうれしいことですが、オーガナイザーとしてはどの国の選手であっても最大限の賛辞を送りたいです。
東京オリンピックではじめて採用された新種目『3×3』の歴史がここに刻まれます。3×3の未来のためにも、これまでこの競技に関わってきた多くの人たちのためにも、しっかり準備をして必ず成功させたいです。もちろん、私たちができることには限界があります。でも、そこをあきらめたり、手を抜いてしまったりすれば、一番危険な状態を招いてしまいます。妥協せずに最後までやり切り、そして最後まで安全に遂行して、オリンピックのメダリストを輩出することに意義を感じています。それが、私たちがやらなければいけないことですから」
そもそも延期や中止などは想定しておらず、最高の状態で大会を迎え、そして無事に終えるために月日を費やし、準備してきた。新種目であり、前例がない3×3を成功させるために取り組んできた舞台裏を、ほんの少しだけだが、安田さんに共有していただいた。