だからといって収穫がまったくなかったとも思っていない。
しつこく、しつこく守り、何度跳ね返されようとも、食らいついていく日本のスタイルは、間違いなくチェコを嫌がらせていた。
たとえば初戦のトルコ戦で放ったシュート1本、無得点に終わった比江島慎が10得点を挙げたこともそのひとつだろう。
チェコ戦の前日、比江島はこんなことを言っていた。
「昨日(トルコ戦)は明らかにアタックする回数が少なかったです。仕掛けた回数がほぼないというか、失敗を恐れるところにも達していないくらいでした。だから明日のチェコ戦では、昨日をなかったことにするというか……気持ちだけだと思います。これまで世界でやってきたときに通用したところもたくさんあったし、そこは気持ちの部分だと思うし……」
比江島らしい歯切れの悪さで振り返りつつも、最後に一言
「切り替えます!」
ここだけは、これまでにないほどしっかりとした口調で言い切った。
それがチェコ戦の10得点にもつながったのだろう。
自分のプレーが世界で通用するのか、自信を失いかけていた比江島が、遅きに失したかもしれないが、大会のなかで何かに気づいたことはけっして小さくない。
なぜならまだ試合は続くからだ。
また178センチながら201センチのサトランスキーをしつこく守った篠山の存在も忘れてはいけない。
ラマスヘッドコーチはこれからも日本代表のサイズアップを進めていくと明言する。世界で戦ううえでそれは必要なことだと思う一方、やはり同じ日本人としてはサイズで多少劣る選手でも大きな選手を苦しめてほしいと願うし、それを実際に遂行しようとする選手を見るとワクワクもする。
しかしゲームを終えた篠山はいたって冷静だった。
身長差で劣るサトランスキーを厳しく守ろうとして、その間合いが小さすぎてファウルになったことも世界基準を知る大きな経験になったのではないかと問うと、こう返してきたのだ。
「これが今、僕が24歳であれば『いい経験しています。次の世界までしっかり成長したい』って言えますけど、『経験の差でした、これをいい経験として持ち帰ります』って、そんな顔をして帰っていい年齢ではないので、やっぱりそこは試合の中でアジャストしなければいけなかったです。ただこのワールドカップを若手のポイントガードや、学生が見て、何かを感じてほしいとは思います」
バスケットではサイズの大きさがひとつの武器であり、それを欠くことはすなわち武器を1つ持たないことにもなる。しかしそれがないからと言って、勝負ができないわけではない。
持っているものでいかに勝負をするか。
そのことを篠山は示したし、それをどうつなげるかは、篠山を含めた世界基準のサイズに達しない選手たちの課題でもある。
それを改めて示した篠山の存在意義は大きい。
比江島のように何度同じ失敗を繰り返しても、そのたびに立ち上がろうとする者や、篠山のようにサイズがなくても覚悟を持って挑む者だけが世界の扉に手を掛けられる。
手を掛けなければ、その扉は開かない。
そう考えると、やっぱり今日も「ようこそ、ワールドカップへ」と言いたくなる。
文 三上太
写真 安井麻実