しかしその3ポイントシュートと同じくらい彼女が持ち味にしているのがスクリーンである。特にベルギーとの第2戦、林が決めた2本目の3ポイントシュートは、それを止めようと守りに出てくるディフェンスの前に立ちはだかった谷村のスクリーンによって止められ、林はそれを放っている。それ以外にも彼女は絶妙なスクリーンをいくつもセットしていた。
「日本はアウトサイドからのシュートが鍵ですし、スクリーンなどそうした細かいところをしっかりやっていかないと世界とは戦えないと思うんです。特に4番、5番の選手は(海外の同じポジションの選手に比べると)高さで負けるかもしれないけど、細かいところでアウトサイドを助けられるようにやっていくことがすごく大切だと思います」
スクリーンではセットするタイミングや角度などがとても重要になる。谷村はそれをトム・ホーバスヘッドコーチに教わっていると言うが、加えて彼女が所属するシャンソン化粧品がスクリーンを多用するチームであることも大きなプラス材料になっていると認める。日本代表では原則的にトム・ホーバスヘッドコーチに指示されたスクリーンをセットするようにしながら、谷村はこう続けている。
「スクリーンの角度やタイミングはもちろんトムさんにも教わっているんですけど、そのなかでも自分が今までシャンソンでやってきたことを取り入れています。トムさんに言われている角度はあるけど、ディフェンスによってはそれがすべてできるわけじゃないから、先回りしそうだなと思ったら、ちょっと違う角度からかけてみようかなとか、自分で考えながら、臨機応変にやっています」
言われたことをただそのままやるのではなく、その場で起こる状況によっては原則を破ってでも実を取りに行く。そのためには常に考えなければならない。谷村はけっして運動能力に秀でた選手ではないが、だからこそ考える、つまり頭を使うことで日本代表の座まで登り詰めたと言っていい。
もちろん考えられる選手だからこそ、谷村は自らの課題もしっかりと認識している。登り詰めたのはあくまでも国際強化試合のベルギー戦であり、東京オリンピック出場を目指す彼女としてはまだまだゴールに程遠い。
「オフェンスは(シャンソン化粧品でやっていることと)似ているところがあるので、考えながらやれているところはあります。でもディフェンスではトムさんのバスケットを100%理解できていなくて、練習でも『今のはこうだ』と言われることが多いんです。まずはそこに早く追い付かないといけないなと思っています。最終メンバーに残るためにもスタメンの動きをよく見て、ディフェンスでもっと頭を使わなきゃいけない、もっともっと勉強しなきゃいけないっていう思いが強いです。今のままだと大事なところで使ってもらえないと思いますし、信頼を得るにはディフェンスかなって思っています」
3ポイントシュートが打てて、スクリーナーとしてもチームを支えられる谷村だが、それらはすべて「頭を使えばいつでもできるディフェンス」があってこそ。ディフェンスのうえに3ポイントシュートやスクリーンがあって初めて、メンバー選考でも「もっとチャンスが増えるなと思っています」と言う。
谷村の存在感はけっしてまぶしい光を放つものではない。しかし彼女の放つ鈍い光はチームに深みをもたらすことができる。今はまだ「攻」の部分でしかないその光を、「攻守」に渡って鈍く光らせたとき、女子日本代表はより深みのあるチームになって、世界を困らせることになるだろう。
文 三上太
写真 吉田宗彦