「思った以上に疲労が抜けていなくて、次回以降のコンディショニングを考えなければいけないと感じました」
10月16日から再開された男子日本代表の強化合宿を篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)はそう振り返った。
2泊3日の日程でおこなわれた第8次合宿は、24名の候補選手のうち実質的に練習に参加できたのは20名。うちポイントガードは4人。
篠山以外には、8月のアジアカップをともに戦った富樫勇樹(千葉ジェッツ)、その選には漏れたが候補入りしていた安藤誓哉(アルバルク東京)、そして日本代表候補初選出の宇都直輝(富山グラウジーズ)である。
メディア公開日は20名を2つのグループに分け、一方が戦術練習をしているときに、他方はフィジカルトレーニングに臨むという形を取っていた。
篠山の相手は安藤だった。安藤といえば、常に全力でプレイし、フィジカルコンタクトも厭わない強気なガードである。
ディフェンス練習では、その安藤がボールを持ったところにビッグマンがスクリーンをかけにいく、いわゆるピック・アンド・ロールに対するチームルールが指導されていた。
篠山は、安藤の強気なアタックに加えて、屈強なスクリーナーの脇を強く、素早くすり抜けなければならない。
当然コンタクトも起きるため、そのたびに篠山の表情が苦悶にゆがむのだ。
それは練習のハードさとともに、Bリーグでの疲労を示している。
「今回はボクらだけ日曜日、月曜日という変則的なスケジュールで、しかもアウェイの北海道での試合。火曜日に飛行機で東京に戻ってきて、そのまま強化合宿。月曜日の試合は延長戦だったし、その疲れも多少はあるのかなと思います」
ワールドカップ予選がこれまでの一都市集中開催でなくなり、ホーム・アンド・アウェイ方式になり、しかも日本ではBリーグの最中に代表戦が組み込まれることになった。
当然、強化合宿もBリーグの試合の合間を縫っておこなわれるのだが、いまだかつてそのスケジュールを経験した者はいない。
「本当に難しい。というのも、今までお手本になるケースがないので、自分で考えながらやらなければいけない。もちろん代表と川崎のストレングスコーチには連携を取ってもらってはいますが、体力の維持、疲労の回復をどうコントロールしていくかがすごく大事になってくると思います」
フィジカル面でのコンディショニングは、一方でメンタルでのタフさも求められる。どちらか一方が欠けてしまうと、他方にも影響が出てくる。日本代表選手に選ばれるということは、むろんこれまでもそうだったが、今後はより一層それを強く意識し、取り組まなければ、世界への扉は開くこともないのだ。
それは篠山も十分に理解している。
「これからはこの形がスタンダードになっていくと思うし、こういう環境でしっかり戦うことがあたり前にならないといけない。そこは言い訳できません。やるしかないという気持ちでいます」
外に向いては明るく、内ではバスケットに対して真摯であり、真面目な性格。
元々、素質としては素晴らしいものを持っていたが、一方で試合前のストレッチなどに対して「無頓着だった」と認める。
しかしNBLの2014-2015シーズンに左足の脛骨を骨折し、そのリハビリの過程で体に向き合う意識を変えていったという。今では試合前にストレッチをしなければ落ち着かないし、寝る前には1時間から1時間半をかけて、体をほぐしている。冷たくてできなかったアイシングも、今ではアイスバスがないと練習を切り上げられないほどだ。
「疲労の取れ方も違うし、(関節の)可動域もすごく変わりました。ジャンプシュートのときの体の感覚もすごくスムーズになったんです。自分の中でプレイも伸びてきていると実感しています」
篠山自身も認めるように、アスリートとしてはケガをしないに越したことはないのだが、たとえケガをしても、それをきっかけに意識や体を変えることができれば、アスリートとしての成長は望めるのだ。
「チームメイトに対して『早く出てきて、ストレッチをしろ』とは言いませんが、ボクにはそれが合っているんです。だから若手や大きなケガをした選手には、いいきっかけになればと伝えるようにはしています」
ケガなどネガティブな要素をどう乗り越えるかで、人はいくつになっても変われるのだろう。
気付けば29歳。
サイズの小ささなのか、明るい言動からなのか、若いと思っていた篠山も中堅からベテランの域に差し掛かろうとしている。
そんなときに降って湧いたようなワールドカップ予選の新たなレギュレーション変更。
しかし篠山はそれにも、しなやかに対応しようとしている。
強化合宿の初日はほぼミーティングに費やされる。金曜日、土曜日がBリーグの試合であれば、日曜日と月曜日で2日間、体を休めることができる。土曜日、日曜日が試合なら1日休められるし、しかし日曜日、月曜日が試合だと体を休めることができない。
「いろんなパターンが出てくると思いますが、そのなかで体や気持ちをどう持っていくかは、やりながら試していくしかありません。でもそれが(日本代表活動の)やりがいというか、楽しさでもあります。またそういうことを含めてプロだと思うし、日本代表だと思います。そこはボクが下の世代に伝えられるよう、いいものをつくっていければという気持ちが強いです」
日本代表としては遅咲きだが、その覚悟は誰よりも持ち合わせている。
翌週の川崎は金曜日、土曜日が試合だった(ともに接戦を勝利している)。
“川崎の篠山竜青”としてはタフな1週間だったが、“日本代表の篠山竜青”としては、少しだけ体を休めて、日本代表の第9次合宿に臨める。
FIBAバスケットボールワールドカップ2019 アジア地区 1次予選
文・写真 三上太