6月15日、平成27年度バスケットボール男子日本代表チームの発足記者会見が行われた。この日発表された代表候補選手は27名。そのうち4名が初選出の選手だ。
今シーズンNBL優勝の原動力にもなったアイシンシーホース三河の橋本竜馬、bjリーグファイナルでの活躍も記憶に新しい秋田ノーザンハピネッツの田口成浩、大学界と高校界からは日本のバスケットボールの将来を担う期待の星として馬場雄大(筑波大学2年)と八村塁(明成高校3年)が選出された。
八村塁(明成高校3年・17歳)
198cmの大きな身体に似合わず、記者会見の挨拶や囲み取材では時折見せる戸惑いの表情に17歳の初々しさがのぞいた。だが、コートの中では一変。昨年出場したU-17世界選手権大会では得点王に輝き、ウインターカップではエースとしてチームを優勝に導くなど頼もしい姿を見せつけた。図抜けた身体能力は誰もが認めるところ、“超高校級„のさらにその上を行く逸材としてこれからどこまで伸びていくのか。期待の熱視線が集まる。
「自分が高校生ということを忘れず、高校生らしく頑張りたい。(高校生らしくということは?と聞かれて)ハキハキとして、エネルギッシュなところです。それと自分はハーフ(父がペナン人、母が日本人)なので、身体の造りとかも他の日本人選手とは違うところがあります。そういうところを生かしていくということと、チームで最年少なので2020年(東京オリンピック)を目指して、元気よくやっていきたいと思います」
高校卒業後はアメリカの大学に進むことを公言しているが、今回の代表チームには2014年NBAサマーリーグを経てマーベリックス傘下のテキサス・レジェンズでプレーした経験を持つ富樫勇樹、現在ジョージワシントン大学1年生として活躍する渡邊雄太といった一足先に“日本を飛び出した„先輩たちがおり「2人にはいろいろ話を聞いて教えてもらっています」という。合宿中、その機会が増えることも楽しみの1つだ。
経験値が高いそうそうたるメンバーに混じって練習することは「すごく勉強になると思うし、その中で自分の個性を出していけたらいいと思っています。とにかくアジア選手権に勝つという目標があるのでそれに貢献できるような選手になりたいです。そのためにも最後の12人に残りたいです」
馬場雄大(筑波大学2年・19歳)
今回の合宿が始まる前日、関東大学新人戦で筑波大は2連覇を果たした。昨年は1年生として新人王に輝いた馬場だが、今年はチームを牽引する2年生として35分47秒出場し28得点、14リバウンドと圧倒的な存在感を示した。打って良し、走って良しのそのプレーを「大学界のレブロン・ジェームス」と称する声も少なくなかったとか。
「いえ、あれはたまたま自分の調子もよくて楽しんでプレーできた結果なので。今日、ここ(代表チーム)で練習してみて、ドリブルも強いし、パスも1つ1つ丁寧で、それでいて力強いし、なんていうかすべてに日々の積み重ねみたいなものを感じました。もう大学とは全然違うレベルです。皆さん、外国人選手と戦っているし、そういう経験からの自信も持っているし、正直、ちょっと気後れするところはあります」
それに加え(周りの先輩たちは)「自分が子どものときから月バス(月刊バスケットボール)で見た人とか、あこがれた人とかばっかりで…。田臥(勇太)さんなんか15歳も違うんですよ。自分が生まれたとき、田臥さんはもう中学3年生ぐらいですでに注目選手だったわけです。そう思うと、今、自分がここにいることがちょっと信じられないというか」
だが、その一方で体の奥から湧き上がってくるような喜びも感じる。
「それはやっぱりバスケットをやる以上自分が目標としていた場所に立てたわけですから、素直にうれしいです。緊張はしますが、それも含めてやっとスタートラインに立てたという気持ち。ここからまた新しい自分の挑戦が始まるんだという覚悟を持って頑張るつもりです」
田口成浩(秋田ノーザンハピネッツ・25歳)
公開練習後、田口はたくさんの記者団に囲まれていた。TKbjリーグから新たに選出された選手であることが話題の1つとなったのは確かだが、加えてバスケットを始めたのが高校からであり、強豪校とは言えない富士大学出身というキャリアにも注目が集まった。そんな中、初日の練習を終え「とにかく今はホッとしています」とにっこり。「正直、慣れないこともあって緊張もしましたが、自分のキャラクターを出して、チームのムードを盛り上げる存在になれればと思っています」
本人がいう『自分のキャラクター』というのは、バスケットでは何事にも臆せず向かっていく姿勢、プライベートでは周りを笑顔にさせる明るい性格。「今回の代表入りを聞いたときと今の心境は?」という質問には「代表候補に選ばれたことは社長からの電話で知りました。ちょうど歯医者で治療中だったんですが、えええ~っとびっくりし過ぎて痛みが吹っ飛んじゃったぐらいです。今日(代表の)ユニフォームを着るときも知らない間に勝手に笑みがこぼれてきちゃって困りました」と笑わせてくれた。
何よりうれしかったのはチームメイトはもちろん、いつも集まっている地元の仲間たちが自分のこととのように喜んでくれ「おまえなら大丈夫」「絶対行ける!」と口々に言ってくれたこと。「おかげで勇気が湧いてきました」
自分の武器は思いっきりのいい3Pシュート(今季42.5%、リーグ4位)と身体を張ることを辞さないアグレッシブさにあると考えている。
「この27人の候補選手の中で自分は1番下だと思っています。だからこそ練習では声を出すことを忘れず、全力を尽くすことしか今は考えていません。(bj)リーグを代表する気持ちは強いですし、それに恥じぬよう頑張っていきたいと思います」
橋本竜馬(アイシンシーホース三河・27歳)
NBL優勝を決めた翌日、長谷川健志ヘッドコーチから電話があった。
「リーグ優勝おめでとうと言ってくださり、そのあとに『今回代表に選ばせてもらったから自分のいいところをしっかり出して頑張ってくれ』と言われ、聞いた瞬間、えっ代表?本当に?という感じでした。そりぁもう、もちろんうれしかったです」
青山学院大学時代は長谷川ヘッドコーチの下で練習に励み、キャプテンを務めた4年次には関東大学選手権、関東大学リーグ戦、全日本大学選手権の3冠を勝ち取る喜びも味わった。長谷川ヘッドコーチに対しては、今も「4年間自分を育ててくれた最高の恩師」という感謝の思いがある。
「今日、ここ(代表合宿)に来るときは少し緊張もしましたが、ヘッドコーチが長谷川さんということで安心できるところもありました」
初めて参加した練習でも「ああ、こういうのあったな、こういうのもあったなと大学当時の練習を思い出し、もちろん当時と違っていることもありますから、その違いを確かめながらやれたことはよかったと思います」
日本のトップレベルの選手が集まった場所で、プレー面だけでなく意識の高さも感じたと言う。だが、その中でも『気持ちの強さでは負けていない』という自負はある。
「今年、自分が1番変わったと思うのは、気持ちの面でみんなを引っ張っていこうというリーダーシップのようなものが形になってきたことだと思うんです。今回自分が選ばれたのもそういう変化を見てもらえたのかなぁと」
チームには同じポジションに経験値に勝る年上の選手もいるが、その中でも自分の持ち味、自分らしさを出して行こうという気持ちには変わりはない。
「この代表チームの中での自分の居場所、立ち位置を模索しながら1番いい自分が出せるよう全力を尽くしたいと思います」
文 松原貴実
写真 三上太