僕はコービー・ブライアントが好きではなかった。
僕らの世代のスーパースターはマイケル・ジョーダン ── 僕自身はクリス・マリンとカール・マローンが好きだったのだけど、“僕ら世代”という括りで言えば、マイケル・ジョーダンがその筆頭だった。
そのジョーダンに真っ向から挑んでくる“クソ生意気な若造”。それが僕の最初のコービー評だった。
むろん当時の僕はNBAを取材していない。今もってしたことがない。だから本当のコービーを知る由もなく、テレビでプレーを見て、雑誌でチラリと読む程度の知識。しかも好きではなかったから、本気で読まない。いいことが書いてあれば素通り、ゴシップ的にシャキール・オニールとの不仲が書かれれば「ほら、見たことか」と感じる、実に狭い了見でしかなかった。
しかし現役の晩年、ロサンゼルス・レイカーズがなかなか勝てなくなったときでも、彼はレイカーズを去ろうとせず、いろんな風評にも負けず、黙々と、淡々と、そして“クソ生意気な若造”のときと同じエネルギーで、そのとき以上のパフォーマンスを見せ続けていることに感動してしまった。
コービーはやっぱりすごいヤツだったんだ。
昨年9月、中国でおこなわれたワールドカップ。日本は1勝もできず、早々に帰国してしまったが、僕は大会を最後まで見ようと中国に残っていた。
しかしプレス申請がうまくいっておらず、北京に入ることはできたのだが、パスが発給されない。僕だけではない。そんな記者、カメラマンがたくさんいて、発給センターは混乱していた。なんとかFIBAの広報担当に連絡を取り、確認をしてもらったうえで発給してもらいアリーナに入ってみると、その日はコービーが記者会見をする日だった。FIBAアンバサダーとしてワールドカップについて語るのだと言う。
記者会見場に現れたコービーは素敵だった。まだプレーできるんじゃないか。アメリカ代表としてコートに立てるんじゃないか。スーツ姿なのだが、そう感じるほどかっこよかった。英語をうまく扱えない僕だが、もうしゃべっている姿さえかっこいい。
ワールドカップの記者会見場はオフィシャルカメラマンを除いて、カメラを持ち込むことができない。しかしスマホはOK。僕以上にミーハーな中国人がスマホでパシャパシャ、もしくはジーッと動画撮影をしている。負けてはいられない。コービーファンの秀さんのために僕はスマホで彼を撮りまくった。文字どおり撮りまくった。会見中に席の移動なんてできないから、基本的に同じような構図ばかりが続くのだけど、撮りまくった。
できれば、雑誌で見たことのある彼の笑顔を撮っておきたい。そう思いながらスマホを向けるのだが、なかなかそのチャンスは巡ってこない。ようやく笑顔を見せたときにはスマホを下ろしていた。慌てて構えるとすでに笑顔が消えている。結局スマホに彼の笑顔を収めることはできなかったが、彼の笑顔を生で見られたことは、ワールドカップ取材の思い出のひとつである。
今朝、彼の訃報に接し、若かったころの思い出や、ワールドカップでの出来事が頭に浮かんだ。ワールドカップでの記者会見を聞いているとき、「彼はこれから、こうやって世界中の人々にバスケットのすばらしさを伝えていく伝道師になっていくんだろうな」と思ったものである。もうそれすらもできないなんて……悲しすぎるよ、コービー。
しかも墜落したヘリコプターには娘さんが一緒に搭乗していたとか。同じ娘を持つ父としては、コービーの死そのものもさることながら、娘さんをそういう目に遭わせてしまった父としての悔恨、最期の無念を思う。コービーと娘のジアナさん、搭乗されていたすべての方のご冥福をお祈りいたします。
文・写真 三上太