進化は人間にとって恩恵か、それとも厄災か。
僕は本を読んでいるのであなたたちの話なんて全く聞いていませんよムーブを繰り出しながら、そんなことを思い始めていた。
僕が進化し損ねている顕著な例に、携帯電話が挙げられる。
これがガラケーからスマホへと発展を遂げた代わりに失われてしまったものや、生じた新たな問題があったりするだろうか。
代表的な事案を考えてみよう。
ここに花盛りの女子高生、ミワコがいるとする。
彼女は典型的なコギャルとしての生き方を志しており、ガングロルーズソックスを標準装備している。
そんなミワコは地元で名高いワルのゲンタと男女の交際関係にあり、彼が所属するカラーギャングの抗争に巻き込まれて誘拐されてしまう。
薄暗い廃工場で後ろ手に縛られ監禁されたミワコは、見張りの目を盗みルーズソックスに忍ばせていたガラケーを取り出す。
両手は背中で縛られていて画面を見ながら操作することはできない。
しかしミワコはコギャルの道を極めんとする求道者、ガラケーのブラインドタッチなど造作もない。
「5」のキーに打ち込まれた丸ポッチを目印に、毎秒30文字の驚異的スピードで親友のマリへ助けを求めるメールを作成する。
『どちゃくそやばたにえんなしよりのなしでぴえんこえてぱおん』
マリは即座に状況を理解し、ミワコを救出すべくゲンタのもとへ急ぐ。
報告を受けたゲンタは仲間を集めて敵陣に乗り込み、先手を打つことで無事にミワコの奪還を成功させた。
しかしもし、ミワコがガラケーでなくスマホを所有していたならば、このミッションはインポッシブルであったに違いない。
いかにブラインドタッチの達人であったとしても、「5」のポッチなしに文章を作成することなど不可能なのだから。
これこそが進化の代償。
我々はテクノロジーの発展による利便性と引き換えに、常にこの深刻な課題を内包した世界で生き続けなければならないのだ。
結局夫婦は帰宅することを選択し、痛みに耐えながら、そしてその痛みに寄り添いながらゆっくりと病院を後にした。
それからすぐに僕の妻も姿を現し、健康診断的な検査の結果はまるで問題なかったので心置きなくラーメンを食べた。
世界は進化を止めることなく変わり続けていく。
それは大きな利益を生み出す一方で、僕たちから重大な何かを奪い去っているかもしれない。
もしかしたらこの先、僕たちはいろんな間違いに気づき、進化などしなければよかったと後悔する日がくるかもしれない。
でもとりま、美味なラーメン食べれるなら人間に生まれてあげみざわ。
タイトル引用元:『ハイキュー!!』/古舘春一/集英社
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。著者近影は本人による自画像。