本を買った帰り道はどうしても早足になる。
明日は休みだしコラムの締め切りまでまだだいぶ余裕がある。
書店員の言葉に従って、一晩で読み切る準備を整えよう。
作品への期待を膨らませながら雑事を済まし、あとは寝るだけの状態を完成させ、本を開く。
なるほど、どこかで聞いたことのあるような話だが、確かに面白い。
どんどんとページが進む。
読みやすいし話も入ってきやすい、なんだか先の展開も読めるような気がする、と思ったところで、決定的な事実に思い当たった。
「この本、読んだことあるわ」
それは数年前に、書店で見かけた同じようなポップに惹かれて購入した小説そのものだった。
一晩では読み切らなかったけど、面白さは推薦文の通りだった。
書店員は本についてとてもたくさんのことを知っている。
だが、僕がどんな本を読んできたのかは知らない。
そして、僕自身が既に読んだ本のことを忘れてしまえば、その本を購入すべきかどうか知る者は、誰もいない。
内容やオチもほぼ思い出してきて、さすがにこれ以上読み進める気にならなかったので本を閉じ、ふと思い立ってiPadを開く。
そういえばあの仮想通貨は今どうなっているだろう。
検索をかけて出てきたチャートは綺麗な右肩上がりの直線を描いてから垂直降下し、それ以降ずっと地を這いずり続けていた。
今回の引用元:『化物語』/西尾維新/講談社
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。著者近影は本人による自画像。