「なんと、同志だと思ってた女が実はCEOだったとは……。でも待てよ、これって韓国ドラマなら最終的に恋人同士になる鉄板シチュエーションじゃないか。ミケさん、ここはひとつ僕と軟着陸でもキメてみませんか?」
『口を慎め家庭内ヒエラルキー最下層が。あと滅びろ。ていうかあんたホントにその食欲どうにかしなさいよ。この間ダイエット成功のお祝いで『カリカリ食べ放題』のご褒美もらってたのに、マジで無限に食うからあの短足ドン引きしてたじゃない。短足がドン引いてド短足になってたじゃない。』
「あんときは50gは食ったな。最高だった。食べても食べてもエサがなくならないんだ。何をいってるかわからねーと思うが、オレも何をされたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。つーか食べ放題を謳いながら途中で強制終了とか看板に偽りありすぎるだろ。これだから支配者階級は信用ならないんだよ。」
『あの人はあんたのこと心配してたわよ。ただでさえお腹を下しやすいのにこんなに無理して一気に食べて、今度は俺の腹の上ででっかい方の失禁してくれやしないだろうかって。』
「まったく、余計な心配をしやがる。奴の栄光時代はいつだよ………全日本のときか?オレは……オレは今なんだよ!!」
『短期的な成果のために対症療法を選択し続ければ、長期的にとても大きな損失を被ることになるわよ。持続可能というキーワードはむしろ人間自身の生き方にこそ適用されるべきだとワタシは思うわ。』
「我は猫である。名は既にある。」
『猫にとっても同じことよ。あの人はあんたにも末長く生きてもらうことを望んでいるわ。あの人の胴のようにね。具体的には今後50年以上生きて老後の面倒を見てもらうつもりよ。おそらく腰が曲がってきたら、その胴長ゆえにあんたを杖代わりにして歩けそうな高さまで屈むことになるでしょうからね。』
「足が短いってのは思ってたよりも大変なんだな…。」
『そう。そして短いだけじゃない、太いの。だからお尻まわりと太ももに合わせてズボンを選べば、必ず裾上げしなければならない。必ずよ。ユニクロの店員さんに裾を20センチくらい捲り上げられてる時の心境があんたに理解できる?』
「想像を絶するな…。なんだか可哀想になってきたよ。オレが間違ってたかもしれない。組合だの正義の鉄槌だのと自分のことばかりで、相手も人間だってことすっかり忘れてたよ。これからは今まで以上にキレのある腹踊りで必死に労働するよ!」
『そう、わかってくれて嬉しいわ。きっとそれが一番ね。それがあんたのためであり、あの人のためであり、そして私のためでもあるのだから…。』
今回の引用元:『3月のライオン』/羽海野チカ/白泉社
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。著者近影は本人による自画像。