前回、映画館に行ったのはいつのことだっただろう。
遠い記憶を探ってみてもなかなか辿り着かず、ようやく思い当たったのは僕が外国で生活していた頃のことだった。
当時の同僚であるアメリカ人に、
「みんなで映画見に行くけど、お前行く?」
と誘われ、いや字幕なしで映画見れるほどの英語力は身に付いてないわ、つーかそれくらい喋ってたらわかるやろお前も、と思ったけどなんとなく断るのも悪くてついていった。
案の定、劇中の会話は終始不鮮明だったが、古代の民族衣装的なものを着込んだ俳優が宙を舞い、エネルギー波を放つなどしていたので、「この物語はフィクションであり、実在する人物、団体、事件などとは一切関係がないぞ」ということだけを了承した。
入り口で配られた3Dメガネをつけたり外したりし、「どうもこの手の仕掛けは酔ってしまって集中できないなあ」などと三半規管の衰えのせいであらすじが入ってこないフリをしているうちにストーリーはクライマックスを迎え、よからぬ事を企む悪の手から世界が救われたようだったが、鑑賞後の感想として真っ先に浮かんだのは、「家でゲームしたかった」だった。
上映後には、お決まりの感想戦が同僚たちの間で交わされた。
意見を求められた僕は「funだったね。うん、とってもfunだった」とひたすら楽しかったことを強調したが、あまりにも反復されるfunに次第に同僚たちの顔が憐みを帯びていき、申し訳なさそうな表情すら見せるようになったので、気の進まない誘いは断るに限る、と強く心に誓った夜になった。
それ以来、足が向かなくなってしまった映画館だったが、久しぶりに訪れてその認識を改めることになった。
映画館はただ映像作品を鑑賞するだけの場ではなく、それ自体が特別な体験を伴うものであって、知人友人他人を問わず、その場所にまつわる人間模様が魅力なのだと思ったりした。
周りで号泣している見知らぬ人達と言葉を交わすことなく共感することで深く物語の世界に没入できたり、一緒に鑑賞した友人が内容を理解できなかったことに対して負い目を感じてしまうその優しさを嬉しく思えたり。
人と人とが同じものを共有して、それぞれが特有の経験を得る、そんな空間である映画館を取り巻く人々の心温まるストーリー。
そんな映画が、五つ目の泣いていい瞬間に認定される日も近いのかもしれない。
今回の引用元:『機動戦士ガンダムUC』/福井晴敏原作、古橋一浩監督/バンダイビジュアル 2010
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。著者近影は本人による自画像。