それにしてもなんていい天気だろう。
空は青く晴れ渡り、太陽は柔らかく世界を暖めている。
木々の中には少しずつ色づき始めたものや既に紅葉を迎えたもの、まだ青々しく夏を惜しむものが入り乱れ、見事なグラデーションを見せてくれている。
そしてなによりも湖はとても穏やかで、空と共に全てを優しく包み込む。
沖縄とはまた違う水辺の美しさ、色鮮やかさに心を奪われて何度も何度もシャッターを切った。
湖岸には平日にもかかわらず多くの人たちが集い、思いの思いの時間を過ごしていた。
釣りをする人、キャンプをする人、散歩する人、楽器を演奏する人。
その全てがカラフルな輝きを放っていた。
街並みもまた魅力的だった。
歴史の色を多く残した情緒あふれる建築物が立ち並び、その趣を感じるたび、この国に生まれたことを嬉しく思えた。
ある場所には湖に向かって大きな鳥居が立っていて、その朱色と湖の青、そして日没直後の紫に染まった空が幻想的な空間を作り上げていた。
一周に要した時間は四時間。
思ったよりも時間がかかったが、平坦な道をゆっくり進んできたこともありそこまでの身体的疲労を感じることはなく、むしろ達成感と充実感が体に満ちていた。
目的のコーヒー屋にたどり着き、心地よい疲労感にうってつけの落ち着いた深みを味わいながら、宿泊先のホテルへと帰ってきた。
気づくと、装填していたフィルムを撮り終えていた。
ほとんど撮影していなかった36枚撮りの35mmを、今日一日で使い切ってしまった。
最近は安易にシャッターを切らないように心がけていたのに。
とにかくシャッターを切ることが楽しかった時期も過ぎ去って、自分が本当にいいと感じた景色に出会ったときだけカメラにおさめようと努めていたので、この頃はフィルムの消費がかなり減っていた。
だからこんなにも早く撮り終えてしまったことに驚いた。
でも、それくらい魅力的な色に溢れた場所だった。
光と色を追い続けた一日だった。
こんなにも恵まれた天気でこの場所を巡れたことは幸せだった。
「現像に出すのが楽しみだ」
撮影済みのフィルムを取り出すため、満ち足りた気持ちでカメラの裏蓋を開けた僕は、しばらくの間動くことができなかった。
そこに入っていたのは、モノクロフィルムだった。
今回の引用元:『四月は君の嘘』/新川直司/講談社
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。著者近影は本人による自画像。