ようやく炊き上がったあつあつのごはんを持ち帰ると、今度は別の問題が発生していた。
他クラスの商品に依存しすぎている点を危惧した我々は、直前になって「ご○んですよ」やふりかけ、キムチ、韓国のりなどのごはんのお供を買い揃え、購入者に無償で提供したのだが、これが思わぬ好評を博し、品切れ寸前だという。
しかしほどなくして、買い出しに出ていたバレー部が新たなごはんのお供を抱えて現れた。
このバレー部は北海道出身で、高校になって福井に移り住んできた。
そのため福井弁の強度は極めて低い。
余談だが我々が修学旅行で訪れた北海道において、このバレー部はその地元力を遺憾なく発揮した。
旅行日程の中に小樽で自由行動をとる日があったのだが、同じ班だったバレー部は
「小樽には見るところが何もないから、福井で1番デカいショッピングセンターの3倍はデカいマイカル小樽(現ウイングベイ小樽)に自由時間を全てブッこむべき」(あくまでも個人の感想です)
という専門家的知見を披露し、我々をマイカル小樽へと誘った。
半信半疑で訪れたマイカル小樽は本当に福井で1番デカいショッピングセンターの3倍くらいデカかったが、デカすぎて歩き疲れたのでアイス食べて帰った。
そのバレー部が補充したごはんのお供をいまかいまかと待ちわびていた客が再び押し寄せ、ついに我々の商品は完売した。
後日、ホームルームにおいて担任から模擬店販売の結果報告がされた。
黒字は確定、我々の関心は売上高にのみ向けられていた。
全員がジュースを買える程度には潤っただろうか。
それどころか完売という最良の結果に終わったことで、クラス全員がすたみな太郎にいけるほどの莫大な利益を生み出してしまったかもしれない。
担任が穏やかな表情で口を開く。
「結果は…」
教室内に緊張が走る。
満面の笑みを浮かべながら担任が続けた。
「赤字です!」
全員が崩れ落ちた。
とても綺麗に。吉本新喜劇のように。
三年間で最もクラスが一つになった瞬間だった。
我々の手元には謎の負債と、充実したごはんのお供が残された。
当時の記憶を思い返した僕は、できることなどなにもなかったのだと改めて思い知らされた。
大人しく客として、可能な限りの売り上げに貢献したいと思う。
今回の引用元:『氷菓』/米澤穂信原作、武本康弘監督/角川書店 2012
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。著者近影は本人による自画像。