だがこのような特殊性の高い経験も含めて、移籍は僕に豊かさをもたらしてくれたと思っている。
行く先々で向き合った多くの物事は人間としての幅を大きく広げてくれた。
だからといってもちろん、一つの場所に居続けることを否定するわけではない。
長く在籍しなければ得られない特別な経験は必ず存在するだろう。
それを体感できなかった人生は、僕にとって大きな損失をもたらすのかもしれない。
でもそれでもいい、と思える程度には充実した道を歩んできたつもりだ。
そもそも、移籍の目的は「移籍すること」ではない。
そこに至る経緯は人それぞれであっても、新たな場所への希望を胸に、これまでの環境では得られなかった「なにか」を求めて旅立つ。
その決断を「間違っていなかった」とするための試行錯誤こそが成熟を促す。
移籍をしてもしなくても、自分の選択に対して報いることができるのは自分だけだ。
チームを移る難しさは誰しもが経験するところだと思う。
どれだけ歓迎され、期待されようとも、どうしても上手くいかないことだってある。
大きな決断をした選手たちがどのように戦い、新しい土地でなにを手にするのか。
それを見届けることは、勝敗や結果以上に興味深い知見を我々にもたらすかもしれない。
(追伸)
新しい仕事は無事に決まりました。
文・写真 石崎巧
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