焙煎とか始めちゃう前に、そもそも美味しくコーヒーを淹れられるようになったのかと聞かれれば、それは言わない約束だとお答えするしかない。
毎日ああでもないこうでもないと唸りながらコーヒーを淹れてもなかなか納得するような味わいにはならず、お店で出しているものと同じ豆を使っても同じ味を出せたことは一度もない。
どうやったら美味しく淹れられるのか、さりげなくお店の人に聞いてみたりすると、大体の場合にまず返ってくる言葉は「豆による」だったりする。
そりゃそうだ。
外国の人に「日本人って寿司が好きなんだろ?」って聞かれたら「人による」って答えるわ。
いや、でも、だとするとこれは困ったことになる。
淹れ方が豆によるのは当然のことだが、では豆の種類がどれだけあるのか、それが問題なのだ。
前述のカッピングでは見事に6/10が麦チョコだった上、その他二種類は黒糖、さらにもう二種類は土だったため三通りの淹れ方さえできれば問題ないはずだが、多分それで事足りてしまう特殊な人類は僕だけで、周りの方々はそれぞれの豆から様々な味覚を感じ取っていた。
だとすれば、厳密に10種類の豆をベストな味に仕上げるためには10種類の淹れ方が必要になるということであって、要するに、地球上の豆の数だけ淹れ方が存在するということなのでは…?
いや無理無理、それは無理だよ。
そんなの全部できたらコーヒー超人すぎるだろ。
アベンジャーズにいたら、多分スーパーヒーローたちのメンタルが充実しすぎて、ピンチに全く陥らなくなるから、映画として成立しなくなると思う。
まあでも、今のところお店で飲むより美味しいコーヒーなんて全然淹れられないけど、自分で焙煎したコーヒーをとっても美味しく淹れられるようになったら、それはすごく楽しいことなんじゃないだろうか。
全てのことに通ずるのは難しいけれど、自分の手の届く範囲くらいは少しでもよく知って、いいものにしていきたい。
コーヒーを煎っているときの甘い香りが、そんな気持ちをさらに掻き立てる。
今回の引用元:『ギャグ漫画日和』/増田こうすけ原作、大地丙太郎監督/バンダイビジュアル 2005
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。
著者近影は本人による自画像。