毎日のようにコーヒーを飲んで、自分でもコーヒーを淹れるようになって、豆から挽くためにグラインダーまで買ってしまって。
次になにやるかっていったらそれはもう焙煎だろうってことで試しにやってみたのだが、これがなんともいえない微妙な結末を迎えてしまった。
初めてにしてはまあまあ美味しく、じゃあお店で出せるレベルかといえばまるでそんなことはない豆。
敢えて人にお伝えするようなポイントが一つもない、そんな焼き上がりとなってしまったため、僕としては逆に頭を抱える事態となった。
これで黒焦げになってあわや消防隊のお世話になるとか、あまりの生焼けにカフェイン過剰摂取で救急隊のお世話になるとかして、なんらかの事件を発生させてくれればコラムのネタとして奇跡の生まれ変わりを遂げることが可能なのに、世の中というのはうまくいかないものである。
なにが失敗の原因だったかといえば、これはもう失敗を目指さなかったことに尽きる。
わかりやすく言い直すなら、美味しいコーヒー豆を焙煎するための努力をしてしまった。
それでいて大失敗を目指そうなどとは、虫のいい話もあったものだ。
初心者の身の上でありながら、コーヒー変態と呼ばれる剛の者のアドバイスのもと、入門としては最適な器具を取り寄せ、変態の店で初心者にも焙煎のしやすい良質の豆を購入し、焙煎方法までご教授願った。
ここまで最善を尽くした上でさらに国の機関のお世話になれるほど、僕は奇跡の星の下に生まれてきてはいなかった。
紙粘土を錬成したのはたまたまだ。
二回続けて紙粘土だったけどたまたまだよね?
ちなみに、今回教えを乞うたコーヒー変態だが、彼の名誉のためにいっておくと、立派な紳士である。
ある日、僕が店を訪れた時などはたまたまカッピングの最中だったのだが、ただの客である僕に快くジョインさせてくれたりした。
カッピングというのはワインでいうところのテイスティングみたいなもので、統一された方法でコーヒーを抽出し、豆の味や風味を客観的に評価する作業だ。
だが正直なところ、コーヒーの味はまだ「うまい」と「まずい」くらいしかわかっていない。
僕みたいな半端者を参加させたところでなんら情報を得られず、店側は一つのメリットも受けることはない。
にもかかわらず、コーヒーへの溢れる愛が全てを受け入れるのだろう。
実際にやってみると予想通りなに一つ形容できず、「美味い!」「さっきと違う美味い。」「よくわからんけどうまい」などとのたまいながら、ひたすらすすり続けることしかできなかった。
コーヒーの味覚を表現するスキルは思いのほか難しいのだ。
なんとなく違うことは感じられてもそれを「〜のような」と的確に言い表すことが僕にはまるっきりできない。
別の店で開かれたフリーカッピングに参加したときも、10種類あったうちの6種類くらいに「麦チョコ」と書き記した。
どんだけ麦チョコ好きなんだ。
あとそのときは、コーヒーの産地も当ててみましょうみたいな難易度高めのカッピングだったのだが、いやそんなのわかるわけないだろと思って当てずっぽで書いてたら、正解発表の時に周りの人たちは結構“当たってました顔”で頷いてたのでビビった。
もちろん僕はひとつも当たらなかった。
唯一、エチオピアの豆だけはピンときたけど、その少し前に「最近はブラジルなのにエチオピアみたいな味のするコーヒーが作られてて、それがとても評価が高い」みたいな話を聞いたので、さてはと思いブラジルって書いたらエチオピアだった。
もうわからんよ、そんなの。