この琉球SNS革命(局所的)が徐々に同僚の中で浸透してきたある日、遠征先の食事会場で数名による僕のインスタアカウント探しが始まった。
以前から知っていた者、その時初めて知った者が一堂に会し、ちょっとした情報の“クラスター”が発生したことで場に混乱をもたらし、一時的なトランス状態に陥ったものと思われた。
彼らは、魔女狩りに臨む聖職者のごとき勢いでヒントを要求し、鬼の形相でアイホンをスルスルやっていたが、まず見つかるわけないし、どうせすぐ飽きるだろうと思って穏やかに眺めていた。
実際、しばらくすると彼らの勢いは激減し、すでに興味は他に移りつつあるようだったが、その中で1人だけ、執念深く僕のアカウントを捜索し続ける男がいた。
小野寺祥太(25歳、岩手県一関市出身)だ。
食後のコーヒーを飲みに外出した僕に同行し、より詳細なヒントを求め続け、あらゆる方法で僕のアカウントの特定を試みる。
この時の僕の心境は、杉下右京につきまとわれる容疑者のそれによく似ていた。
そういえば目の前の小野寺はなんとなく水谷豊に………似てない。
結局、小野寺警部はホシをあげられずじまいだったが、執拗な取り調べを受けた石崎容疑者は大きな不安に駆られた。
部屋に戻って自分のアカウントを検索し、特定されるリスクがどれくらい大きいのか検証してみると、ほぼ100%不可能であることがわかった。
投稿にあるクリティカルなワードを使ったとて、検索リストに上がってくることがまるでないのだから、他人には探し当てようはずがない。
直前に投稿した写真につけたハッシュタグで検索をかけたって全然出てこない。
逆にこれまで見てくれてる人はどのようにして僕の投稿に辿り着いたのか。
自分探しの旅で自分が見つかることはないのと同じ理屈なのだろうか。
僕の写真、地下に埋もれすぎじゃない?
改めてこの仮想現実の途方もない広大さを思い知らされた。
こんなにも広いインターネット世界で英雄になるためには、どれほどの仕掛けを施す必要があるのだろう。
伝説になるにはそれ相応の規模の注力があってこそなのだと改めて思い知らされた。
目標を見据えた積み重ねこそが重要なのであって、そう言った意味でも認知症の疑いがある僕は、来年のエイプリルフールも大した嘘をつくこともなく過ごすのだろう。
今年は世界的な情勢の影響があってか大物が現れることはなかったように思うが、それはつまり2年分の仕掛けが盛り込まれる余地があるということで、来年を楽しみにしたい。
最後に一つ言い忘れたが、僕の携帯、見た目はガラケーだけど、中身はスマホだ。
今回の引用元:『銀河英雄伝説 Die Neue These』/田中芳樹原作、多田俊介監督/松竹 2018
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。
著者近影は本人による自画像。