最後に紹介するお店は、表参道から少し離れた代々木公園近くにある「Fuglen Tokyo」さん。
これまた今までにはない雰囲気を持つ、異国感の強さが特徴的な内装だった。
こちらもかなりの人気店であるせいか、ほぼ満席の店内だった。
しかし、ここまで調査兵団のごとき島外遠征を敢行してきた僕にはひと時の休息が必要だった。
店内を見回し、幸運にも長イスの一角が空いていることを確認すると、疲れ切った身体を滑り込ませる。
隣に座っていたのがストロングスタイルのヤンキーだったので少々心がざわついたが、そんなことも言っていられない。
沖縄の車社会に慣れきったこの体では、東京の公共交通機関に長くは耐えられないのだ。
それにしてもこんな田舎の成人式で活躍しそうな御仁が、ハイセンスカフェでこだわりコーヒーを味わう光景には大きな違和感を覚える。
特攻系衣類で身を包んだその姿は、もはや陳腐とすら呼べるほどの有り様だ。
それでいて本など読んでいるものだから、謎は一層深まるばかり。
あまりに印象的だったので気づかれないようコソコソと様子を伺っていると、どうやら彼の読んでいる本はお芝居の台本であるようだった。
さらに、おじいちゃんと孫ほどの年の差のご老人が彼のところまで来て、このあとのスケジュールや現場の確認などをしていた。
察するに、この隣に座っているストロングスタイルのヤンキーは実は役者さんで、今は撮影の合間かなにかのようだ。
先ほどの役者仲間と思しき老人とのやりとりを見る限りでは、この若者は大変に真面目で礼儀正しい好青年であるらしい。
よくよく見てみると、顔つきも穏やかで品のありそうないい男なのに、醸し出すオーラはろくでなしブルースそのものだ。
完全に前田太尊が降りてきている。
しかしこれだけの徹底ぶりだ、きっといい演技をするのだろう。
これもなにかの縁だから見てみたい。
ドラマなのか舞台なのかもしくは映画なのか、全然見当もつかないけどタイトルさえわかればどうにか見つけられるかもしれない。
そう思って、トイレに立った際に何気なく若者が読んでいる台本の表紙を覗いてみると、
「ニューホテルズ(新宿) 二丁目の有志」
雑なパロディだと気づくまでに結構な時間が必要だったし、あとキャラ設定おかしい。
ネットで検索かけてもそんな作品は出てこなかったが、コーヒーはちゃんと美味しい。
「根はいいヤツ」なんて言っても、幹や枝が腐っていればそれは立派に嫌なヤツなのだろうし、結局は外に出てくる部分が重要なのだ。
それに、制服を着れば気が引き締まるとか、衣装を着ることで人格まで変わってしまうとか、外見が人間の中身に及ぼす影響は計り知れない。
見た目にはその人の意思が顕著に現れてくるのだから、それも頷ける。
まずは表面的なところから理解を深めていくことが真理への近道と言える。
その証拠に、いくら豆の特性を勉強しても、それに合った器具を準備していない僕のコーヒーは、やっぱり不味い。
今回の引用元:『ドラゴンボール』/鳥山明/集英社
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。
著者近影は本人による自画像。