沖縄に来て半年くらいたった、ある休日のこと。
僕は有名な植物園に来ていた。
なによりも自然を愛する僕は、沖縄ならではの亜熱帯植物や、美しく彩られた花々を楽しみながら、ゆっくりと歩き回っていた。
すると、後ろから一人の少年が全速力でこちらに向かってやってくる。
「写真撮ってください!」
そういって僕の前で急停止した少年は、明らかにバスケをやっている格好をした、小学校低学年くらいの元気な男の子だ。
特に急いでいるわけでもなく、新宿で次の高座が予定されているわけでもない僕は快諾したのだが、よく見るとその少年は写真を撮るための道具を持っていない。
これはなにごとかと様子を伺っていると、後ろから小学校高学年くらいの少女が二人、走ってこちらにやってくる。
どうやら三人は姉弟のようだ。
姉妹はスマホを持っているらしく、若干興奮した様子でカメラの準備をしている。
その二人に向かって、少年が僕の方をチラ見しながら話しかけた。
「この人……誰だっけ?」
え?
知らんの?
あんなに全力で走ってきたのに?
でもまあ確かに、大して乗り気じゃなかったもんね、キミ。
……あー、そうか。そういうことか。
僕を見つけたのは、お姉ちゃんたちのほうか。
でも声をかけるのが恥ずかしかったから、弟にお願いしたんだな。
まあよくわかるよ、僕も昔そんな気持ちになったことあったし、岐阜で。
それに僕ってほら、ちょっと謎な雰囲気あるじゃん?
女の子って発達が早いから、小学校も高学年ともなってくると、僕みたいな大人のミステリアスな魅力に気づいちゃって、声をかけようにもためらったりしちゃうよね。
うんうん、しょうがない、しょうがない。
カメラの起動に手こずっていた姉妹の一人が、弟に向かって答える。
「石崎だよ、〇〇〇〇(マンション名)の!」
所属チームどころか住所を把握されていた。
全然謎めいてないじゃん。
家を知ってるってことはご近所さんですか?
そしたら近くのスーパーで見られたりしてるよね?
家計のためにわざわざスーパー行って「やさしい麦茶」買ってるとことか見られてるよね?
生活感溢れすぎやろ。
ミステリアスさのかけらもないわ。
結局、さらに後から追いついてきた親御さんにカメラを任せ、三人姉弟と一緒に写真を撮ってお別れした。
結論。
喜んでもらえたみたいでよかったです。
今回の引用元:『君の名は』/新海誠監督/東宝 2017
石崎巧
1984年生まれ/北陸高校→東海大学→東芝→島根→BVケムニッツ99(ドイツ2部リーグ)→MHPリーゼンルートヴィヒスブルグ(ドイツ1部リーグ)→名古屋→琉球/188cmのベテランガード。広い視野と冷静なゲームコントロールには定評がある。
著者近影は本人による自画像。