出会いと別れのデッドライン
まもなく春がやって来る。新たな生活がスタートする新年度は、別れの季節でもある。先週のNBAはそんな時期だった。
トレードデッドラインとなった2月6日、ワシントン・ウィザーズもテコ入れを行った。175cmながらビッグプレーを決める小さな巨人アイザイア・トーマス。ケガも多い今シーズンだが、3Pシュートを急成長させるジョーダン・マクレイ。2003年に2度目の引退をしたマイケル以来、2人目となる移籍2年目のジョーダンは期待どおりの活躍を見せていた。多くの日本人選手たちも参考にするアイザイアに魅せられはじめてもいた。そんな矢先のお別れはやっぱりつらい。
筆者はウィザーズ以外のNBA選手をあまり知らない。というか、興味がない。トレードでやって来たシャバズ・ネイピアーも、ジェローム・ロビンソンも“はじめまして”である。しかし合流まもない彼らは、ともにウィザーズでのデビュー戦で名刺代わり以上のインパクトを残してくれた。ようこそ我がチームへ!
スターとともにサクラメントへ浮気!?
応援してきた27シーズンの中で1度だけ、移籍する選手とともにチームを離れようかと気持ちが揺れ動いたときがある。1998年のことだ。
あらためて彼のキャリアを振り返ると、前身のブレッツ時代を含めてウィザーズに在籍したのは、たった4シーズンだった。思い入れが強かったせいか、もっと長く一緒に戦っていたように思える。在籍時は平均20.9点を挙げ、常にトップスコアラーとしてチームを牽引。1996-97シーズンには、9年ぶりにプレーオフへと導いてくれた。しかし、翌1997-98シーズンを最後にトレードでサクラメント・キングスへと去ってしまう。
この年ばかりは悩んだ。筆者自身、変わったばかりのウィザーズのロゴや青いユニフォームに少し抵抗もあった。当時はマイナーだったサクラメントに、魅力的なメンバーが揃っていたことにも気持ちが揺らぐ。ペジャ・ストヤコビッチ、ブラデ・ディバッツ、そしてルーキーのジェイソン・ウィリアムズが話題を集めていた。そんなサクラメントに、当時のNBAで一番のお気に入りだったクリス・ウェバーが行ってしまう。ならば、いっそのことサクラメントのファンになろうか…と。
ホームチームを応援する本場っぽい楽しみ方を求めて出会ったチームであり、選手に依存してはいけない。最初に決めたルールを思い出し、踏み止まったのが1998年である。最近では映画『アンクル・ドリュー』でコミカルな演技を披露し、ふたたびその活躍を見られてもうれしい。クールなイメージだっただけに、新たな一面を垣間見られた。現役中はどこでプレーしようが、引退すれば元ウィザーズの仲間であり、誇らしいレジェンドだ。
浮気せず、なんとか踏み止まったおかげで、今シーズンは八村塁を迎えることができた。そんな塁は、2月4日のゴールデンステート・ウォリアーズ戦でモー(バグナー)とともに復帰し、元気な姿を見せてくれている。若い彼らは今週末に行われるオールスターウィークエンドで、ライジング・スターズ・チャレンジに出場する。バルタン星人ことダービス・バルターンズは3ポイントコンテストで、きっと世界を驚かせることだろう。未来のスター選手も多い愛しきウィザーズは頼もしく、楽しみなタレントが揃っている。
そんな愛息たちを応援し続けたいが、サラリーキャップがある以上は別れも致し方ない。しかし、1998年と同じように気持ちがグラつくことはもうないだろう……ん?ジョン(ウォール)が不在の今、献身的にチームを引っ張るブラッド(リー・ビール)が、もしもチームを離れたら ──
文・写真 泉誠一