「自分がなりたい自分になる」── 石崎巧という生き方(4) より続く
周りを驚かせた第2の人生
ご存知の方も多いと思うが石崎は2年前からバスケットボールスピリッツに毎月1本コラムを寄稿していた。タイトルに使われた『404 Not Found』はユーザーがアクセスしたURLにサーバーが返すエラーコードで「それは今現在存在しないページです」の意味を持つ。つまりバスケットボール選手が書くコラムということでバスケットに関する内容を期待する読者がいたとすれば「ここにはそれは存在しません」ということ。なんとも石崎らしいシャレが効いたタイトルだった。当然内容もそのタイトルのままバスケット以外のことが大半を占める。コーヒー、写真、ゲーム、落語、温泉、愛猫、ときには最近の買い物や消費税の話まで取り上げる内容は多種多彩で、バスケットの話はごくたま~に登場するだけ。その引き出しの多さと独自の切り口、そして、なにより読み手を飽きさせない構成力には目を見張るものがあった。使用する写真は自分で撮影したもの、イラストもまた自筆となれば、作者がバスケット選手であることをついつい忘れてしまいそうになる。バスケット選手がコラムを書いているのではなく、コラムニストがたまたまバスケット選手だったのでは…と。そして、毎回コラムを楽しみに読んでいたファンであれば現役を引退した石崎のセカンドキャリアを聞いてもさほど驚かなかったかもしれない。「コラムであれだけ熱くコーヒーの話を語っていたからなあ。次の仕事が『名古屋のカフェの店員』だったとしても石崎さんならあり得るかもしれないなあ」と…いやいや、やっぱり、それは違うか。いきなり『カフェの店員』と聞けば、さすがにみんな驚いたに違いない。
だが、母の幾世さんは「当初からバスケット関係の仕事はやらないという雰囲気を醸し出していたので、それほど驚きはなかったです」と言う。「ドイツに行ったときもそうですが、自分がやりたいこと、進みたい道についてはその都度きちんと筋道を立てて丁寧に話してくれるので、そういう面ではあまり心配したことはありませんでした。私もコラムを読んでましたから、ああ今はコーヒーに相当ハマってるんだなあとわかっていましたし(笑)」。子どものころからやると決めたことはまじめに取り組む性格で「好きというより面倒くさかった」と言っていたピアノでさえ毎日朝食前30分の練習は欠かさなかったそうだ。「沖縄に行ってからピアノをまた弾いてみたくなったらしく安いピアノを買ったことは本人から聞いていました。でも、びっくりしたのは久しぶりに福井に帰ってきたときです。何気に家のピアノを弾き始めたんですが、それがショパンの幻想即興曲だったんです」。興味がある方は調べてみるといいが、ショパンの幻想即興曲といえばかなり難易度が高いとされる曲だ。「本人はやっぱりピアノはいいなあなんて笑っていましたが、改めてこの子は自分が興味を持ったもの、やりたいと思ったものはとことん極めようとするんだなあと思いました。バスケットもピアノもコーヒーもたぶん同じなんでしょうね」