さまざまな壁を乗り越えられるビジネスチャンス
コロナ禍によりオンラインでの活用方法が増えたように感じるが、その技術自体は何年も前からできていたものも少なくはない。実際、弊スピリッツでは新潟にある編集部と首都圏にいるライター&フォトグラファーをつなぎ、以前からオンライン会議を主流としてきた。
四半世紀前、マルチメディアやインタラクティブ、シームレスの3つをキーワードにネット時代の幕が開けた。昨今はその活用方法が見直され、新たに見出されたことで、インタラクティブとシームレスがさらに加速しているように感じる。オンライン会議ツールなどを用いたことで、距離に関係なくファンとつながることができた。
コロナ禍がおさまらなければ、プロ野球やJリーグ同様、バスケ界も無観客試合は避けられない。当然、各クラブはそれも想定し、リモート観戦の充実化に向け、現在進行形で知恵を絞っているはずだ。そのアイディアは、通常通りにファンをアリーナに迎え入れられることになっても生かして欲しい。リモート観戦により、バーチャル空間にキャパシティを増やすことが可能になる。
B1クラブライセンスのひとつとして『5,000人以上のアリーナ確保』がある。ここにリモート観戦の人数を含むことができれば、物理的キャパシティ問題は解消できる。もちろん選手たちは、より多くのファンの前でプレーする機会を求めており、クラブとしてもそれに見合った理想の環境作りを止めてはならない。だが、1万人や5万人になったとしても、座席数には必ず限りがある。リモート観戦を平行して充実化させていけば、収入源を増やすことだってできるはずだ。
故郷を離れた人たちが地元チームをより応援しやすくするのも、リモート観戦のメリットである。病気や障がいを持つ方々にとっても、より身近にアリーナを感じられる機会が創造できる。現状でも車いす用シートは用意されているが、その数は極端に少ない。バリアフリーの整備が進んでいないアリーナの問題もある。リモート観戦を充実化させることにより、距離だけではなく、障がいの壁も乗り越えて新たなファン層の開拓につながる。その収入の一部は、誰でもライブ観戦できるためのバリアフリー化に活用すれば良い。
アリーナグルメをご家庭へ
リモート観戦チケットの購入特典としてチームウェアやグッズ、アリーナグルメや地ビールなど“観戦のおとも”が送られてくれば、アリーナとの一体感は増すだろう。グッズはネット通販で購入できるが、アリーナグルメは無観客になってしまうと収入は得られない。サポートしてくれる地元の飲食店や企業とともに企画・開発し、アリーナグルメをご家庭に届けることが新たなビジネスチャンスや街おこしになるかもしれない。交通費などをかけてまで応援に行けないアウェーファンにとっても、家にいながらご当地グルメを楽しむ新しい体験となる。
そんな筆者の稚拙なアイディアは、無観客試合の先輩であるプロ野球ですでに実践されていた。千葉ロッテマリーンズではユニフォームなど特典が付いてくる、その名もズバリ『リモート応援チケット』。そうそう、こういうことである。
リモート観戦は、テレビやネット中継との差別化ができなければ付加価値は生まれにくい。放映権の問題も出てくる。BリーグやWリーグであれば、バスケットLIVEとの協業からはじめることが近道ではないだろうか。アリーナ観戦では体験できないようなアングルや、試合後の交流などリモート観戦特有のアイディアにより、5GやVRなど新たなテクノロジーの普及も期待できる。バスケ界にとっては、大きなスポンサーメリットにつながりそうだ。
不便な昨今だからこそ、リモート観戦の可能性は無限大である。だが、アリーナでのライブ観戦こそがバスケの醍醐味であることはこれからも変わりない。今後は、その価値がさらに高まっていくことだろう。プロ野球やJリーグ、NBAの動向を見ながら、観光や音楽業界などの取り組みにもさまざまなヒントが眠っている。新シーズンへ向けた各クラブのアイディアを楽しみにしたい。
文 泉誠一
写真 吉田宗彦