この勝利が秋田にとって会心だったのは、もう一つ理由がある。今シーズン途中に退任した前田顕蔵前ヘッドコーチが来場し、試合開始前のコートに立ったのだ。シーズン途中でチームを去った人物がそのシーズンのうちにホームゲームに姿を現すのは異例中の異例だが、それを可能にしたのは、前田前HCが10シーズン余りにわたって秋田に尽くした功労者だからだ。その試合で、前田前HCが築き上げてきたディフェンス主体の理想的な試合を展開できたことが、秋田にとって何よりの喜び。中山にも、思うところはやはりあったようだ。
「実際に会場に来てくれたので、良いゲームを見せたいというのはありましたし、退任するまで秋田で一緒に作ってきたものもあるので、HCが代わった後もそこを絶やしちゃいけない、僕個人の責任としてそれを体現しなきゃいけないというのはずっと思ってますし、それは今日の試合に限らず見せ続けるのが自分のやるべきことだと思ってます。
秋田にい続けるのもいろんな理由がありますけど、その一つがやっぱり顕蔵さんと一緒にというのがありました。僕は降格も昇格も経験しましたけど、『這い上がって戦って上に行くのが面白いよね』って顕蔵さんが言ってくれたのが、僕の中ではすごく大きかった。シーズンはまだ終わってないですけど、残りの試合もやりきりたいと思います」

移籍市場が盛況なBリーグにおいて、10シーズンを一貫して同じクラブで過ごした選手は決して多くなく、生え抜きの選手となればさらに限られる。Bリーグ初年度に特別指定選手として秋田の一員となった中山は、その限られた貴重な1人。いつの間にか10シーズン目となり、本人は「(秋田に)長くいるとは思ってなかったです(笑)」と言うが、「やっぱりプロスポーツって移籍のイメージがあって、同じ所に長くいるというのは少ないじゃないですか。勝ち負けはありますしいろんなこともありますけど、好きなことを仕事にできて、大きな怪我なくバスケットできてるのはすごく幸せなこと」と秋田で過ごしてきた日々を思い返し、「良い人生を送れてるんじゃないですか」と実感している。
中山ほどの選手となれば、他クラブも指をくわえて見ているはずはなく、これまで多くのオファーがあったであろうことは想像に難くない。それを受けて、必ずしも秋田を最優先に考えてきたわけではなかったという中山だが、秋田で向き合ってきたものは中山を離さなかった。
「僕は先を見すぎないって決めてて、今目の前にあることをやろうというのを大事にしてるんです。今シーズンもまだ試合があるので、まずはここに全力を尽くしたいですし、今この瞬間のこの勝負に賭けるというタイプなので、毎年フラットに考える中で、その繰り返しで秋田にい続けてるというのはありますね。気づけば10年、長いっすね(笑)」

中山本人も「今後どうなっていくか、僕自身もわからない」と言う通り、移籍の可能性がゼロではないことは言うまでもない。しかし、前田前HCが「秋田大好きです」と言ったように、中山も「奥さんも秋田なので、秋田がホームというのは死ぬまで変わらない」と断言。中山がハピネッツの象徴であると同時に、秋田の地は常に中山の魂が宿る場所だ。
文・写真 吉川哲彦











