楽しくなければ(前編)より続く
子どものなりたい職業ランキングに入ることはまずないであろう職業ランキング第1位(同率多数)。
ゼネラルマネージャー、GM。
この現状を支える最大の要因は、「なにをやる人なのかわからない」に尽きるのではないだろうか。
実際、GMという役職と直接やりとりをし、ともに仕事をする環境に身をおいた経験のある筆者でさえ、その人の役割がなんであるかを明確に把握してはいなかった。
選手獲ってくる人なんかな、くらいのものである。
今回はせっかくの機会なので、GMという人はいったいどんな仕事をしているのか、今一度改めて聞いてみることにした。
はたらくおとなの実態に迫る。
「海外やNBAでは編成から、お金のことから、地域貢献活動から。すべてに関わって、把握をして、人を動かすような、勝つための文化を作るような感じで聞いています。」
一般的なGMの仕事とはなんぞや、という筆者の素人質問に対し、あたたかくもわかりやすい回答を寄せてくれた渡邉拓馬GM。
これを聞くだけでも、ちょっとやそっと選手をやっていた程度の人間に務まるような職業でないことは明白だ。
試合で結果を出すための人選、それを思い通りに実現するための資金獲得、さらにはチームが地元に根付き、その土地を生きる人々にとって必要な存在となるためのおこない。
そのすべてに携わり、組織の進む道を牽引するためには、実にゆたかな知識や経験が求められることだろう。
だがGMとして一般的な、王道とでもいうようなかたちにこだわることを渡邉GMはしないという。
「アルバルクのときの仕事から始まって、やめてからの子どもたちへの普及活動を経験して。最初に僕が思ったのは、京都に関わってくれたことで今後の彼らの、彼女たちの人生の転機となる、きっかけとなる時間と、出会いと、環境の提供。そういうのができたらいいなと思っていて。その瞬間は結果がでなくても、10年後とかに、京都ハンナリーズであの時間があったから、自分の今がある。そう思ってもらえるようなチームをまずは作りたいっていうふうに思いました。それが自分が思うGM像というか。そういうふうに考えて始めました。」
いくら勝利のためとはいえ、その文化が多くの犠牲の上に成り立っていたとしたら、その集団は観る人の心を動かさないだろう。
だからこそ、選手やスタッフに高い意識を強いるのではなく、モチベーションが自然と高く維持される場所を目指す。
「言葉は悪いですけど、たかがバスケット、されどバスケット。でもバスケットを通して人生のなにかにつながるような出会いとか、経験とか、環境とかがあれば、極力バスケットをやってみたけど、いや自分はバスケットじゃないって気づいた、次の道にやっぱり行きたい、って思えば、それはそれで僕としてはすごく、その人にとっていい経験だと思っていて。そういう出会いで自分が本当は違う道のほうが向いているって気づけたら、それはもう自分がしたいことだと思う。同じように、京都の試合を見たファンの方が、あぁ、バスケットも面白いけど自分はサッカーのほうが好きだ、とか、バスケットを観にきたけど自分は選手じゃなくて演出のほうにいきたいとか、そういう気づきの場になれたら。観てくれた人の少しでも、人生のなにか、一瞬。変わるきっかけになれば、一番やっててよかった、そう感じるんじゃないかと思って。いまはそういう思いでやっています。」