成長すること。
オリンピックまでに、可能な限り。
頭の中を常に占めるこの意識がシェーファーの環境を最適化し、そして夢の舞台へと導いた。
加えて、シェーファーを飛躍的に成長させた要因がもう一つあると筆者は考える。
それは、早くからバスケットを専門としてこなかったことだ。
シェーファーの公式プロフィールを覗いてみると、子供の頃の習い事が実に多いことがわかる。
「うちの両親が教育方針として決めていました。必ず水泳を習わせることと、武道を習わせることと、音楽も一つ習わせること。その三つをやった上で、うちの家ではスポーツが盛んで兄弟みんながやっていたので、自然とやるって感じでした。」
幼少期から専門化された訓練に取り組み、大会などにおいていつも目覚ましい成績をあげることが、将来を約束されたエリートの条件としては一般的かもしれない。
しかしある研究では、子どもにできる限り様々なスポーツや身体活動を経験させるほうが、なにか一つのスポーツに集中させるよりも長期的には良いとも言われている。
”自転車、ランニング、水泳、スケートボード、アイススケート、ローラースケートなど幅広く多様性に富む基本的運動や活動を経験すると、いわゆる「身体知能」の発達に役立ち、機能的な動作での解決策を検索し、発見し、活用する能力が引出される。(中略)トップクラスのアスリートが若い時に経験していたのは、サッカー、レスリング、ホッケー、フィギュアスケートなど異なる様々な種目のスポーツであったことを見出した。運動発達の反対のタイプ(早すぎる競技の専攻)は、競技の離脱につながると示された。” レネ・ウォンホート他、アスレチックスキルモデル、金子書房、2021
シェーファーがバスケット以前に打ち込んできたもの。
それらによって培われた大きな基盤が成長を後押しした可能性は高い。
「サッカーではあれだけ走らなければいけないので、走れるビッグマンとして、このサイズがあっても走り続けられるのはサッカーのおかげかなと思います。あと大きいのは日本拳法ですね。日本拳法は防具をつけてガチのコンタクトがあるんですよ、殴り合いというか。なのでコンタクトが怖くないというか、選手との接触が怖くない。やっぱり接触を嫌がる選手って結構いると思うんですけど、躊躇なくそこをいけるところは日本拳法のおかげだと思います。」
強豪に身を置くことに拘らない。
バスケット以外の活動を切り離さない。
エリートとは真逆の道を歩んできたからこそ、シェーファーは短い時間でトップレベルとなった。
その過程はとても知略と胆力に富み、経験の全てが最大限に活用されていた。
シェーファーアヴィ幸樹…おそろしい子!
『アインシュタインはマジックジョンソンのパスを見破るか』(中編)へ続く
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE