「昨シーズンの強度が高いディフェンスにプラスして、今年はカタさみたいなものを積み重ねられていると思います。相手にとって簡単なシュートの効率をグンと下げられるようなディフェンスができています。強度がメインになってしまうと、どうしても裏をやられて簡単な2点を与えたりしてしまうんですけど、強度の中にカタさが加わって、それがチームとしてもいいディフェンスだよねっていう認識があります。ボールプレッシャーも必要以上にはかけず、大切な部分ではプレッシャーをかけるけど、ずっとかけ続けるとカタさがなくなる。みんなが駆け引きしながらディフェンスができるので、その良さがチームディフェンスにも落とし込まれていると思います。」
最終的な目標を共有しながらも、そこにいたるプロセスは個々の裁量に委ねる割合を増やす。
どんな事態に直面しても素早く対応可能な柔軟性を持ったチームは、強い。
琉球の試合を見ていても、どのようなスタイルで戦うチームなのかがいまいち掴めずにいたのだが、岸本の話を聞いて腑に落ちるところが多い。
「選手の判断で行える部分が今シーズンはすごく多いので、みんながそれぞれ自分にあったやり方を選択できるのが、勝率、結果に繋がってきてるのかなと思います。もしかしたら若い選手は戸惑ってた…のかもしれないです。チームの変化に最初は、どこまでがセーフでどこまでがアウトかっていうところの試行錯誤はしてたと思いますけど…でも、わりとすんなり今の形になった感じもしますけどね。」
チームの輪郭がはっきりと見えてきた、そのきっかけはシーズン最初の試合だった。
「開幕戦がアルバルク東京との試合だったんですけど、相手のミドルジャンプシュート、ロングツーのシュートがめちゃめちゃ入ったんですよ。特に序盤。でも現代バスケではミドルジャンプシュートが一番効率が悪いとは一応、言われてるじゃないですか。なのでどれだけ入ってもそのシュートには対応せずに最初のプランを変えなかった。もちろん、これはやらせていいんだよね、でも本当に抑えにいかなくていいのかなっていう迷いはあったと思うんですよ、最初の試合なので。ただ結果として開幕戦を勝ったことで、試合での経験が特に若い選手たちには影響したんじゃないかと思います。自分の感覚と違うところでどうディフェンスするかってなったときに、迷うような場面でもコーチが言ってることとみんなの感覚の両方を信じてやれるっていうのがよかったのかなと思います。その経験から、迷ったときも続けることで活路が見えてくる部分はあるよね、っていうのを知れたと思います。まあでも、難しいですけどね、シュートが入ってオッケー、ってなんなんだよって思うときはありますけど。でも40分を通しての駆け引き、となるとそれはそれで面白いよなー、とも思います。」
ヘッドコーチがチームづくりをするにあたって、よく用いられるかたちは二つ。
統制か放任だ。
現在の琉球はそのどちらでもなく、灰色に輝いている。
後編:「すべての意思はチームに通ず」へ続く
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE