「止まる」能力はシュートにのみ影響を与えるわけではない。
この試合において、「めっちゃ止まるやん」と感じさせられたのは、富山グラウジーズの阿部友和。
もともと彼のクイックネスは高いレベルにあると認識していたが、改めて見るとよく止まる。
フロントコートからボールを運んできて、ピタッと止まる。
バッシュの裏に接着剤とか仕込んでないですか、と疑ってみたくもなる。
彼を守る藤永佳昭は大変にめんどくさいディフェンスをするので、かなりスピードを上げてボールを運ばなければならない場面がよく出てくる。
スピードを上げるのは簡単なのだが、PGは全体の様子を把握し、組織的なプレーにつなげねばならないので、ハーフラインを越えたあたりで一旦止まるのが望ましい。
これが昨年まで琉球で0番をつけていた人に代表されるような止まれないガードだったりすると、スピードを殺しきれずにボールを失ったり、判断を誤って無謀にもゴールまで突っ込んでしまったりする。
だが阿部友和はめんどくさいディフェンスをものともせずにスピードを上げ、何事もなかったかのように理想的な位置で静止し、スムーズなオフェンスを展開した。
P&Rでも阿部友和は止まっていた。
P&Rの第一目標は、ボールを持ったプレーヤーとスクリーンをかけたプレーヤーの間に距離を作ることにある。
距離の取り方には様々なバリエーションが存在するが、この日の千葉が選択した守り方を突破するには、ボールマンがスピードを出してビッグマンのディフェンスを迂回するのも有効だ。
阿部友和は一度はターンオーバーをしたもののその直後、前回の情報を活かして見事に適切なルートを選択し、P&Rから味方の得点をアシストした。
一瞬とも言えるほどに短い時間でプレーの推移を把握しチャンスを見極めるため、ジョシュ・ダンカンをかわすべく作り出したスピードを殺し、正確なパスを出した。
もしディフェンスを突破したスピードそのままにプレーを続けたならば、コントロールされたパスを出せずにミスしていたかもしれないし、そもそも味方のシュートチャンスを認識できていなかったかもしれない。
プレーを成功させるためには様々な要因が必要だ。
圧倒的な能力の持ち主ならば、トップスピードで突き進むのが最善の場合もある。
飛び抜けたボールハンドリング力で相手を翻弄するのも有効だろう。
だが試合における予測不能な状況において自分の能力を最大限発揮するためには、走り続けるだけでなく止まることが肝要だ。
「止まる」ことは停滞を意味しない。
それは「前進」を構成する重要な一部分なのである。
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE(写真は2020-21シーズン)