生真面目で優しく、賢く、考え込むタイプ。それが大学4年でキャプテンを任されたときには足かせになったが、それを乗り越え、日本一になったことがありのままの自分で戦えるんだという自信につながった。もちろん大学とプロとではレベルに違いがある。単にスキルレベルの差だけでなく「1本のシュート、1本のディフェンスなど本当にワンプレーで状況が変わるのがプロの世界だ」と感じている。
「だからこそ印象に残るようなプレーをしていかなければいけないと思っているんです」印象に残るようなプレーとは、冒頭に記したダンクシュートを狙うような派手なプレーではない。いや、もちろんそれも印象に残るのだが、今の牧にとっては、結果として相手に勢いづかせるようなプレー、冒頭のエピソードで言えば、八村のブロックショットを引き出すダンクシュートではなく、見た目としては地味かもしれないが、試合が終わったときに「あのワンプレーが勝利に結びついた」と言われるようなプレーを自らの手でクリエイトしたい。そう考えているのだろう。
「他チームのルーキーが思い切ってガンガンやっているのを見ることもありますけど、僕はそれが持ち味じゃないというか、そこだけじゃない、もっとチームに必要な選手になりたいと思っているんです。そうしたビジョンを持って、バスケットのプレーだけじゃなく、リーダーシップを発揮したり、発言もしていきたい。今はそうしたチャレンジしているところです」
高校、大学と7年間ともに戦ってきた増田啓介(川崎ブレイブサンダース)が1年目からシックスマンとして活躍し、オールスターゲームに選出されようとも牧は「僕にはもっと違う活躍の仕方がある」と意に介さない。紡いできたプレースタイルがチームに浸透し、勝利に欠かせないものになれば、おのずと評価はついてくる。
もちろんプレータイムを伸ばしたいという野心もあるし、そのためには印象に残るプレーをしなければならない。それも十分にわかっている。そのうえでこう繰り返すのである。
「プロの世界に入ってきて、本当にわずか1本のシュートで状況が大きく変わるんだなと思っているんです。だからどこかの1試合で、早くインパクトのあるプレーを残したいなって思いますね」
2020年最後のホームゲーム、12月27日の川崎ブレイブサンダース戦で牧は18分33秒出場し、7得点をあげている。ディフェンスでも鍛え上げてきたフィジカルを生かして、マッチアップの選手を苦しめた。久々のスポットライト。翌2021年が明けた最初のゲーム、千葉ジェッツとのアウェイゲームでは初戦こそ1桁の出場時間で、無得点に終わってしまうが、2試合目は10分程度の出場時間ながら、冷静な状況判断を随所に見せていた。“考える選手”の真骨頂と言っていい。
熟考の先にある衝撃は、少しずつではあるが、その花を開かせつつある。
文 三上太
写真 B.LEAGUE
画像 バスケットボールスピリッツ