── それで合点がいきました。個人練習を見ていたとき、永吉選手は寺嶋良選手とペアを組んで、黙々と3ポイントシュートの練習をしているのに対して、松井選手はその時間、代名詞である3ポイントシュートではなく、動きのある2ポイントシュートを練習していましたね。
松井 そうですね。今は「KJは3ポイントシュートが絶対に入る」って思われていて、相手チームも3ポイントシュートを消そうとしてきます。そこで僕がドライブをしてもレイアップシュートには絶対に行けないし、普通にワンドリブルからのプルアップをしてもブロックされる可能性があるんですね。だからちょっと前に飛んだり、相手がブロックできないようコースにジャンプしながら打つとか、そういうシュートは今の僕の武器にもなっているかな。
── それ以前にシューターはボールをもらうことさえ難しくなっているように思います。松井選手はディフェンスの駆け引きはどうしていますか?
松井 佑也が出ているときは、佑也に「スクリーンに来て」って言っているんです。というのも、今シーズン、佑也はそれほど3ポイントシュートが入っていないですよね。だから相手チームもそれほどベタ付きで守ってこないんです。だから佑也にスクリーンに来てもらえれば自分が空く可能性が高くなります。要するにディフェンスが佑也から離れているから、佑也がスクリーンをうまく使えば、佑也のディフェンスが離れている分、僕の前にシュートを打つスペースができるわけです。それでもスイッチされたら、佑也がロールしてリングのほうに行って、そこにパスを出してアウトナンバーを作れるかなと。
── 相手の戦略を逆に利用すると。確かに松井選手は1対1を仕掛けようとするタイプではありません。
松井 そういうことは34歳になった今、もうできません(笑)。20代の若い選手で、ディフェンスができて、体も強くて……たとえば明日(取材は3月13日。翌日から名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦だった)対戦する安藤(周人)や中東(泰斗)を相手に1対1でシュートを決めろって言われてもなかなか難しいと思うんです。逆に1対1からのシュートは僕にとってのいいシュートセレクションではないんですよ。それを得意としているわけではないし、チームからすれば「え、そのシュートを打つの?」って思われて、流れも悪くなりますから。
── 永吉選手に、インサイドもできて、リバウンドも取れて、アウトサイドもできる強みがあるのと同じように、松井選手自身も自分の強みを生かしていると。
松井 そういうことです。それがチームバスケットなんです。だって完璧な選手はどのチームにもいませんから。レブロン(・ジェームズ。ロサンゼルス・レイカーズ)だって外のシュートがものすごく入るかと言えば、それほどでもないですよね。何が得意で、何が不得意かを練習や話し合い、チームメイトとの組み合わせのなかで作っていって、そのうえでチームオフェンスが決まったときにいいシュートになるんです。ファンから見ても「今のはきれいなバスケットだね」って思えるんです。
part3「シューターの10分の1、コンバートの1分の1」へ続く
文 三上太
写真 沼田侑悟