part3より続く
熊本ヴォルターズの小林慎太郎はコート内でのプレーはもちろんのこと、コート外でも自分の背負うものがあると自負している。それが“ミスター・ヴォルターズ”の役割であり、責任でもあると考えている。
「今のヴォルターズは県民のみなさんの期待や想いが詰まったチームなので、それを新しいメンバーに僕が伝えてなければいけないと思っています、ヴォルターズの伝統、つまり“ヴォルターズイズム”を内に伝えながら、外にはヴォルターズが持つ力強さや雰囲気を発信して、内と外、チームと地域、選手と監督、そうしたすべてをつないでいきたいと思っています」
では小林の考える“ヴォルターズイズム”とは何か?
そこにはやはり小林が両親から受け継いだ教えがあり、パナソニックで学んだ主義がエッセンスとして含まれている。
「僕が考えるヴォルターズイズムってやはり“人のためにできるチーム”だと思います。それが大前提としてあります。自分だけじゃなくて……もちろんプロフェッショナルなので、自分の結果が出ればという考え方もあると思うんですけど、そうではなくて、人のためにどれだけ働けるか。それができるのがこのチームのいいところだし、それがヴォルターズの伝統だと思っています。個じゃなくてチームになれる、和になれる、それこそがヴォルターズイズムであり、ヴォルターズと地元をつなげていけているところじゃないかなと思います」
人様のおかげで今の自分たちがある。だからその人たちのためにプレーし、頂点を目指す。ただし一人ひとりの力では太刀打ちできない。チームが和をもって戦うことで、目標は叶っていく。そんな“ヴォルターズイズム”を次の世代にも継承していきたい。
そこにはヴォルターズの“冬の時代”を知っている小林だからこその思いもある。
「僕が入ってきた1年目なんて『ヴォルターズって何のチーム? バレーか何か?」って言われるくらい認知度も低かったんです。コートでは右を向いても、左を向いても風がピューピュー吹くだけ。誰も、何も声をかけてくれないような、本当にきつい時代でした。観客が400人とか、500人くらいしか入らないときもありましたね。今でこそ街に出れば『あ、ヴォルターズの小林選手だ』って言ってもらえます。うれしい反面、僕はそれに恐怖心を覚えるんです。これだけ盛り上がってきたから、いつその熱が冷めるのか、その恐怖心のほうが大きいんです。飽きられるんじゃないか、負けたらお客さんが離れるんじゃないか。本当にそういうことを考えるようになってきましたね」
うまくいっているときだからこそ有頂天になってはいけない。むしろここで気を引き締めておくことが次につながる。小林はそうした危機管理能力にも長けている。
「だからこそなんです。伝えて、発信していかなければ忘れ去られてしまいますし、結果が振るわなければ、やはりお客さんが来なくなってしまう。そういうダメなチームになってしまうと思うんです。やっぱり人のため、みんなのためにできるようなチームであり続けることが大事なんじゃないか。もちろんプロチームなので結果も大事ですけど、結果に左右されない、いいチーム作りとは、そういうところにあるんじゃないかなと思っています」